デジタル会計監査六法

会計処理に必要な会計基準や実務指針を公開

税効果会計に係る会計基準の適用指針① 平成 30 年 2 月 16 日(企業会計基準適用指針第 28 号)

 目 的

1. 本適用指針は、企業会計審議会が平成 10 年 10 月に公表した「税効果会計に係る会
計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を適用する際の指針を定めるものである。


適用指針


範 囲

2. 本適用指針は、税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用
する。
3. 次に示す企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び実務指針において
定められている税効果会計基準を適用する際の具体的な取扱いは、本適用指針におけ
る取扱いにかかわらず適用される。
(1) 企業会計基準第 12 号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適
用指針第 14 号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」に定められた四半
期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における税効果会計の適用に係る取扱い
(2) 企業会計基準第 25 号「包括利益の表示に関する会計基準」に定められたその他
の包括利益の内訳の開示に係る取扱い
(3) 企業会計基準適用指針第 9 号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用
指針」に定められた株主資本等変動計算書における変動事由の表示に係る取扱い
(4) 企業会計基準適用指針第 10 号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関
する適用指針」(以下「結合分離適用指針」という。)に定められた企業結合及び事
業分離等に関連する税効果会計の適用に係る取扱い
(5) 企業会計基準適用指針第 26 号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」
(以下「回収可能性適用指針」という。)に定められた繰延税金資産の回収可能性
に係る取扱い
(6) 企業会計基準適用指針第 29 号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適
用指針」に定められた中間連結財務諸表及び中間財務諸表における税効果会計の
適用に係る取扱い
(7) 実務対応報告第 5 号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面
の取扱い(その 1)」及び実務対応報告第 7 号「連結納税制度を適用する場合の税
効果会計に関する当面の取扱い(その 2)」に定められた連結納税制度を適用する
場合の税効果会計の適用に係る取扱い
(8) 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 4 号「外貨建取引等の会計処理に関
する実務指針」に定められた子会社持分に係るヘッジ取引に関する税効果会計の
適用に係る取扱い
(9) 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 9 号「持分法会計に関する実務指針」
(以下「持分法実務指針」という。)に定められた持分法会計に関する税効果会計の適用に係る取扱い


用語の定義


4. 本適用指針における用語の定義は、次のとおりとする。
(1) 「納税主体」とは、納税申告書の作成主体をいい、通常は企業が納税主体となる。
ただし、連結納税制度を適用している場合、連結納税の範囲に含まれる企業集団が
同一の納税主体となる。
(2) 「法人税等」とは、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金をい
う。
(3) 「一時差異」とは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及
び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額をいう。
なお、一時差異及び税務上の繰越欠損金等を総称して「一時差異等」という。税務上の繰越欠損金等には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法(昭和 32年法律第 26 号)上の法人税額の特別控除等が含まれる。
(4) 「財務諸表上の一時差異」とは、個別財務諸表において生じる一時差異のことをいい、将来減算一時差異又は将来加算一時差異に分類される。
① 「将来減算一時差異」とは、財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものをいう。
② 「将来加算一時差異」とは、財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を増額する効果を持つものをいう。
(5) 「連結財務諸表固有の一時差異」とは、連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しない。当該一時差異は、連結財務諸表固
有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に分類される。
① 「連結財務諸表固有の将来減算一時差異」とは、連結財務諸表固有の一時差異
のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を下回る(又は上回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が減額されることによって当該減額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つものをいう。
② 「連結財務諸表固有の将来加算一時差異」とは、連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を上回る(又は下回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が増額されることによって当該増額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つものをいう。
(6) 「課税所得」とは、法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
(7) 「税務上の欠損金」とは、法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。
(8) 「標準税率」とは、地方公共団体が課税する場合に地方税法(昭和 25 年法律第226 号)で通常よるべきとされている税率をいう。
(9) 「超過課税による税率」とは、標準税率を超える税率で、地方公共団体が課税することが地方税法で認められているものをいう。
(10) 「制限税率」とは、地方公共団体が超過課税による税率で課税する場合においても超えることのできない税率で、地方税法に規定されているものをいう。
(11) 「法定実効税率」とは、連結納税制度を適用する場合を除き、次の算式によるものをいう([設例 10])。
法定実効税率 = 法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率
1+事業税率5. 本適用指針に、企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」第 4 項に定義されている用語が使われている場合、当該用語の定義に従う


会計処理


税効果会計の目的


6. 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続であるとされている(税効果会計基準 第一)。


繰延税金資産及び繰延税金負債の計上

7. 繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間
において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならないとされている(税効果会計基準 第二 二 1)。
8. 繰延税金資産及び繰延税金負債は、次のとおり計上する。
(1) 個別財務諸表における繰延税金資産は、将来の会計期間における将来減算一時差異の解消、税務上の繰越欠損金と課税所得(税務上の繰越欠損金控除前)との相殺及び繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積額について、回収可能性適用指針に従って、その回収可能性を判断し計上する。
ただし、組織再編に伴い受け取った子会社株式又は関連会社株式(以下「子会社
株式等」という。)(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く(結合分離適用指針第 108 項)。)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについては、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定又は実施計画が存在する場合を除き、繰延税金資産を計上しない。
(2) 個別財務諸表における繰延税金負債は、将来の会計期間における将来加算一時
差異の解消に係る増額税金の見積額について、次の場合を除き、計上する。
① 企業が清算するまでに課税所得が生じないことが合理的に見込まれる場合
② 子会社株式等(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く
(結合分離適用指針第 108 項)。)に係る将来加算一時差異について、親会社又は投資会社(以下「親会社等」という。)がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合
(3) 連結決算手続においては、連結財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負
債として、連結財務諸表固有の一時差異が生じた納税主体ごとに、当該連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の見積額を計上する。
連結財務諸表固有の将来減算一時差異(未実現利益の消去に係る将来減算一時
差異を除く。)に係る繰延税金資産は、納税主体ごとに個別財務諸表における繰延税金資産(繰越外国税額控除に係る繰延税金資産を除く。)と合算し、回収可能性適用指針第 9 項に従って計上する。
9. 本適用指針第 8 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上するときは、次の場合を除き、年度の期首における繰延税金資産の額と繰延税金負債の額の差額と期末における当該差額の増減額を、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
(1) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等(企業会計基準第 5 号「貸借対
照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第 8 項に定める評価・換算差額等をいう。以下同じ。)を直接純資産の部に計上する場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、年度の期首における当該差額と期末における当該差額の増減額を、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する。
(2) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識し
た上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合、当該評価差額等に
係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、年度の期
首における当該差額と期末における当該差額の増減額を、その他の包括利益を相
手勘定として計上する。
(3) 連結財務諸表において、子会社に対する投資について、親会社の持分が変動することにより生じた差額(親会社持分相当額の変動額と売却価額又は取得価額の差
額をいう。以下「親会社の持分変動による差額」という。)を直接資本剰余金に計上する場合、当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の額を、資本剰余金を相手勘定として計上する。
10. 第 9 項に従って連結財務諸表固有の一時差異に対して法人税等調整額を計上する場合、当該連結財務諸表固有の一時差異が生じた子会社に非支配株主が存在するときには、親会社持分と非支配株主持分に配分する。


財務諸表上の一時差異等の取扱い

その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い

11. その他有価証券の評価差額に係る一時差異については、本適用指針第 8 項の定めにかかわらず、回収可能性適用指針第 38 項から第 41 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する(本適用指針第 9 項(1)参照)。


繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い

12. 繰延ヘッジ損益に係る一時差異については、回収可能性適用指針第 46 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する(本適用指針第 9 項(1)参照)。


土地再評価差額金に係る一時差異の取扱い


13. 「土地の再評価に関する法律」(平成 10 年法律第 34 号)に基づき事業用土地を再評価したことにより生じた差額(以下「土地再評価差額金」という。)に係る一時差異については、第 8 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上
する(第 9 項(1)参照)。
14. 第 13 項に従って計上した繰延税金資産又は繰延税金負債について、再評価を行った事業用土地の売却等により土地再評価差額金に係る一時差異が解消した場合、当該解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す。


租税特別措置法上の諸準備金等に係る将来加算一時差異の取扱い

15. 圧縮積立金、特別償却準備金、その他租税特別措置法上の諸準備金等(以下「諸準備金等」という。)の積立額(又は取崩額)に係る将来加算一時差異については、第 8 項(2)に従って繰延税金負債を計上する(又は取り崩す)。当該繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として計上する(又は取り崩す)(第 9 項参照)。諸準備金等の積立額(又は取崩額)は、当該繰延税金負債の計上額(又は取崩額)を控除した額となる([設例 1]及び[設例 2])。


連結会社間における資産(子会社株式等を除く。)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い

16. 連結会社間における資産(子会社株式等を除く。第 38 項及び第 142 項において同じ。)の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法(昭和 40 年法律第 34 号)第 61 条の 13(完全支配関係がある法人の間の取引の損益))、当該資産を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、第 8 項及び第 9 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。


連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い

17. 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第 61 条の 13)、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、第 16 項と同様に取り扱う([設例 8])。


連結財務諸表固有の一時差異の取扱い

子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の取扱い

18. 資本連結手続において、子会社の資産(又は負債)を時価評価し、評価減(又は評価増)が生じた場合、当該評価減(又は評価増)に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、第 8 項(3)に従って回収可能性を判断し繰延税金資産を計上する([設例3])。
また、資本連結手続において、子会社の資産(又は負債)を時価評価し、評価増(又は評価減)が生じた場合、当該評価増(又は評価減)に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異について、繰延税金負債を計上する([設例 3])。
19. 資本連結手続において、時価評価した子会社の資産(又は負債)を償却又は売却(又は決済)した場合、当該資産を償却した年度又は売却した年度(又は当該負債を決済した年度)に、資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の解消に応じて繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す。


個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上した場合の連結財務諸表における取扱い

20. 個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該評価損に係る将来減算一時差異の全部又は一部に対して繰延税金資産が計上されているときは、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、当該繰延税金資産と同額の繰延税金負債を計上する。当該繰延税金負債については、個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産と相殺する。
また、個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該評価損に係る将来減算一時差異に対して繰延税金資産が計上されていないときは、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。
21. 個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上し、当該評価損について税務上の損金算入の要件を満たしている場合(過去に税務上の損金に算入された場合を含む。)、資本連結手続に伴い生じた当該評価損の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。


子会社に対する投資に係る一時差異の取扱い

(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異の取扱い)
22. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、原則として、連結決算手続上、繰延税金資産を計上しない。ただし、次のいずれも満たす場合、繰延税金資産を計上する。
(1) 当該将来減算一時差異が、次のいずれかの場合により解消される可能性が高い。
① 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等(他の子会社への売却
の場合を含む。)を行う意思決定又は実施計画が存在する場合
② 個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損について、予測可能な将
来の期間に、税務上の損金に算入される場合
(2) 第 8 項(3)に従って当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産に回収可能性があると判断される。
(子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異の取扱い)
23. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異のうち、第 24 項に定めた解消事由以外により解消されるものについては、次のいずれも満たす場合を除き、将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する([設例 4-2])。
(1) 親会社が子会社に対する投資の売却等を当該親会社自身で決めることができる。
(2) 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等(他の子会社への売却の
場合を含む。)を行う意思がない。
24. 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異のうち、子会社の留保利益(親会社の投資後に増加した子会社の利益剰余金をいう。このうち親会社持分相当額に限る。以下同じ。)に係るもので、親会社が当該留保利益を配当金として受け取ることにより解消されるものについては、次のいずれかに該当する場合、将来の会計期間において追加で納付が見込まれる税金の額を繰延税金負債として計上する。
(1) 親会社が国内子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、当該配当金の
一部又は全部が税務上の益金に算入される場合
(2) 親会社が在外子会社の留保利益を配当金として受け取るときに、次のいずれか
又はその両方が見込まれる場合([設例 5])
① 当該配当金の一部又は全部が税務上の益金に算入される。
② 当該配当金に対する外国源泉所得税について、税務上の損金に算入されない
ことにより追加で納付する税金が生じる。
一方で、親会社が当該子会社の利益を配当しない方針を採用している場合又は子会社の利益を配当しない方針について他の株主等との間に合意がある場合等、将来の会計期間において追加で納付する税金が見込まれない可能性が高いときは、繰延税金負債を計上しない。
25. 本適用指針第 24 項(2)①における親会社が在外子会社の留保利益を配当金として受け取るときに税務上の益金に算入されることにより追加で納付が見込まれる税金の額を算定する場合、当該在外子会社の外貨表示財務諸表に示された留保利益を基に、当該子会社の決算日(子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合(企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」という。)第 16 項)は、当該連結決算日)における為替相場を用いて算定する。
26. 第 24 項(2)②における外国源泉所得税の額について追加で納付が見込まれる税額を算定する場合、配当金を支払った在外子会社の所在地国の法令(又は我が国と当該所在地国で租税条約等が締結されている場合には法令及び当該租税条約等)に規定されている税率を用いて計算する。また、当該法令が改正される場合(又は当該租税条約等が締結される若しくは改正される場合)、第 44 項に準じて、当該外国源泉所得税の額を計算する。
(子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の各項目の取扱い)
27. 第 22 項から第 24 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合、当該繰延税金資産又は繰延税金負債は、次の場合を除き、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
(1) 次の子会社又は関連会社(以下「子会社等」という。)に対する投資に係る連結
財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債については、そ
の他の包括利益を相手勘定として計上する(第 9 項(2)参照)。
① 親会社等の投資後に子会社等が計上したその他有価証券評価差額金に係る連
結財務諸表固有の一時差異
② 親会社等の投資後に子会社等が計上した繰延ヘッジ損益に係る連結財務諸表
固有の一時差異
③ 親会社等の投資後に子会社等が計上した退職給付に係る負債又は退職給付に
係る資産に関する連結財務諸表固有の一時差異
④ 為替換算調整勘定に係る連結財務諸表固有の一時差異
(2) 次の子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金
資産又は繰延税金負債については、資本剰余金を相手勘定として計上する(第 9 項
(3)参照)。
① 子会社に対する投資について追加取得に伴い生じた親会社の持分変動による
差額に係る連結財務諸表固有の一時差異([設例 4-3])
② 子会社に対する投資について当該子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会
社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異


子会社に対する投資を一部売却した場合の取扱い

(子会社に対する投資の一部売却後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合における親会社の持分変動による差額に対応する法人税等相当額についての売却時の取扱い)
28. 子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合、連結財務諸表上、当該売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額に対応する法人税等に相当する額(子会社への投資に係る税効果の調整を含む。)(以下「法人税等相当額」という。)については、売却時に、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除する([設例 4-1])。
資本剰余金から控除する法人税等相当額は、売却元の課税所得や税金の納付額にかかわらず、原則として、親会社の持分変動による差額に法定実効税率を乗じて計算する。
(子会社に対する投資を一部売却したことにより親会社と子会社の支配関係が継続していない場合における残存する投資に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債についての売却時の取扱い)
29. 子会社に対する投資の一部売却により当該被投資会社が子会社等に該当しなくなった場合、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされている(連結会計基準第 29 項なお書き)。
この場合、本適用指針第 27 項に従って法人税等調整額を相手勘定として計上した当該子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却に伴い投資の帳簿価額を修正したことにより解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を、利益剰余金を相手勘定として取り崩す。


子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する繰延税金資産又は繰延税金負債についての取扱い

(親会社の持分変動による差額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合の子会社に対する投資を売却した時の取扱い)
30. 子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、第 27 項(2)に従って資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、当該子会社に対する投資を売却した時に当該売却により解消した一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。当該繰延税金資産又は繰延税金負債については、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す([設例 4-3])。
(親会社の持分変動による差額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していなかった場合の子会社に対する投資を売却した時の取扱い)
31. 子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額を資本剰余金としている場合で、かつ、当該子会社に対する投資の売却の意思決定とその売却の時期が同一の事業年度となったことなどにより、売却直前に繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していなかった場合、当該子会社に対する投資を売却した時に、当該資本剰余金に対応する法人税等調整額に相当する額について、法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目を相手勘定として資本剰余金から控除する([設例 4-4])。


債権と債務の相殺消去に伴い修正される貸倒引当金に係る一時差異の取扱い

32. 個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異の全部又は一部に対して繰延税金資産が計上されているときは、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、当該繰延税金資産と同額の繰延税金負債を計上する。当該繰延税金負債については、個別財務諸表において計上した貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産と相殺する([設例 6])。
また、個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合であって、当該貸倒引当金繰入額に係る将来減算一時差異に対して繰延税金資産が計上されていないときは、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上しない。
33. 個別財務諸表において連結会社に対する債権に貸倒引当金を計上し、当該貸倒引当金繰入額について税務上の損金算入の要件を満たしている場合(過去に税務上の損金に算入された場合を含む。)、連結決算手続上、債権と債務の相殺消去に伴い当該貸倒引当金が修正されたことにより生じた当該貸倒引当金に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して、原則として、繰延税金負債を計上する。この場合、債権者側の連結会社に適用される法定実効税率を用いて計算する。ただし、債務者である連結会社の業績が悪化している等、将来において当該将来加算一時差異に係る税金を納付する見込みが極めて低いときは、当該連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る繰延税金負債を計上しない。


未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い

34. 未実現利益の消去に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については、売却元の連結会社において売却年度に納付した当該未実現利益に係る税金の額を繰延税金資産として計上する。計上した繰延税金資産については、当該未実現利益の実現に応じて取り崩す([設例 7-1])。
また、未実現損失の消去に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異については、売却元の連結会社において売却年度に軽減された当該未実現損失に係る税金の額を繰延税金負債として計上する。計上した繰延税金負債については、当該未実現損失の実現に応じて取り崩す。
35. 未実現利益の消去に係る繰延税金資産を計上するにあたっては、回収可能性適用指針第 6 項の定めを適用せず、その回収可能性を判断しない。また、繰延税金資産の計上対象となる当該未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における課税所得の額を上限とする([設例 7-2])。
36. 未実現損失の消去に係る繰延税金負債を計上するにあたって、繰延税金負債の計上対象となる当該未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額については、売却元の連結会社の売却年度における当該未実現損失に係る税務上の損金を算入する前の課税所得の額を上限とする
37. 子会社の決算日が連結決算日と異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について必要な整理を行い、未実現損益が消去された場合、当該未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債については第 34 項から第 36 項に従って計上する。


連結会社間における資産(子会社株式等を除く。)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い

38. 連結会社間における資産の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第 61 条の 13)であって、当該資産を売却した企業の個別財務諸表において、第 16 項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該売却損益が消去されたことに伴い生じた当該売却損益の消去に係る連結財務諸表固有の一時差異に対して、個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延税金負債と同額の繰延税金負債又は繰延税金資産を計上する。当該繰延税金負債又は繰延税金資産については、個別財務諸表において計上した当該売却損益に係る一時差異に対する繰延税金資産又は繰延税金負債と相殺する。


連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い

39. 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第 61 条の 13)であって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、第 17 項に従って当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しない([設例 8])。
なお、連結会社間における子会社株式等の売却の意思決定等に伴い、子会社等に対する投資に関連する連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合、当該繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却により解消される一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を売却時に取り崩す。また、当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、第 22 項又は第 23 項に従って処理する。


子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い


40. 連結子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合(親会社が連結子会社から自己株式を取得した場合)に当該子会社に生じる売却損益に対応する法人税等のうち親会社持分相当額は、企業会計基準適用指針第 2 号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第 16項に準じて、資本剰余金から控除する([設例 9])。
41. 持分法の適用対象となっている子会社等が保有する親会社の株式又は投資会社の株式(以下「親会社株式等」という。)を当該親会社等に売却した場合についても、第 40項と同様に処理する。


退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する一時差異の取扱い

42. 連結財務諸表における退職給付に係る負債に関する繰延税金資産又は退職給付に係る資産に関する繰延税金負債については、個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異に関する繰延税金資産の額又は前払年金費用に係る将来加算一時差異に関する繰延税金負債の額に、連結修正項目である未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下合わせて「未認識項目」という。)の会計処理により生じる将来減算一時差異に係る繰延税金資産の額又は将来加算一時差異に係る繰延税金負債の額を合算し、当該合算額について次のとおり処理する。
(1) 当該合算により純額で繰延税金資産が生じる場合、当該合算額について回収可
能性適用指針第 43 項及び第 45 項に従って回収可能性を判断し、未認識項目の一
時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債について、その他の包括利益を相手
勘定として計上する(回収可能性適用指針第 10 項(1))(本適用指針第 9 項(2)参
照)。
(2) 当該合算により純額で繰延税金負債が生じる場合、未認識項目の一時差異に係
る繰延税金資産又は繰延税金負債について、その他の包括利益を相手勘定として
計上する(本適用指針第 9 項(2)参照)。


子会社株式等の取得に伴い認識したのれん又は負ののれんに係る繰延税金負債又は繰延税金資産の取扱い

43. 子会社株式等の取得に伴い、資本連結手続上、認識したのれん又は負ののれんについて、繰延税金負債又は繰延税金資産を計上しない。


繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率


繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法

44. 繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して「税法」という。)に規定されている方法に基づき第 8 項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。ただし、税法に規定されている納付税額の計算方法のうち、税率については、第 45項から第 49 項に従う。


繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率


45. 税効果会計基準では、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされている(税効果会計基準 第二 二 2)。
46. 法人税及び地方法人税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等(法人税及び地方法人税の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。)に規定されている税率による。
47. 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)(以下合わせて「住民税等」という。)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している地方税法等(住民税等の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。)に基づく税率による。
48. 第 47 項における決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、次の税率をいう。
(1) 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合
(地方税法等を改正するための法案が国会に提出されていない場合を含む。)
決算日において国会で成立している地方税法等を受けた条例に規定されている
税率(標準税率又は超過課税による税率)
(2) 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合
① 改正された地方税法等(以下「改正地方税法等」という。)を受けて改正され
た条例(以下「改正条例」という。)が決算日以前に各地方公共団体の議会等で
成立している場合決算日において成立している条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)
なお、決算日において成立している条例とは、決算日以前に成立した条例を改
正するための条例を反映した後の条例をいう。
② 改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で
成立していない場合
ア 決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されて
いるとき
改正地方税法等に規定されている標準税率
イ 決算日において成立している条例に超過課税による税率で課税することが
規定されているとき改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率
49. 第 48 項(2)②イに定める差分を考慮する税率を算定するにあたっては、例えば、次の方法がある([設例 11])。
(1) 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条
例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超
える数値を加えて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。
(2) 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条
例に規定されている超過課税による税率における改正直前の地方税法等の標準税
率に対する割合を乗じて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。


子会社の決算日が連結決算日と異なる場合の税法又は税率の取扱い

50. 連結財務諸表を作成するにあたって、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合(連結会計基準第 16 項)、当該子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法又は税率は、本適用指針第 44 項から第 49 項の「決算日」を「連結決算日」と読み替えた税法又は税率によるものとする。
また、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合(連結会計基準(注 4))、当該子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法又は税率は、本適用指針第 44 項から第 49 項の「決算日」を「子会社の決算日」と読み替えた税法又は税率によるものとする。


繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法が改正された場合の取扱い

51. 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正された場合、次の場合を除き、当該修正差額を当該税率が変更された年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
(1) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等を直接純資産の部に計上する
場合、当該評価差額等に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の
差額について、税率が変更されたことによる修正差額を、当該税率が変更された年度において、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として計上する。
(2) 資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識し
た上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合、当該評価差額等に
係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の差額について、税率が変更されたことによる修正差額を、当該税率が変更された年度において、その他の包括利益を相手勘定として計上する。
52. 子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額に係る一時差異について、子会社において税率が変更されたことによる繰延税金資産及び繰延税金負債の修正差額は、当該税率が変更された連結会計年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上する。
53. 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の改正に伴い税率以外の納付税額の計算方法が変更されたことにより、繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正された場合、第 51 項及び第 52 項の定めと同様に処理する。
(税法が改正された場合の一時差異の取扱い)
54. 税法が改正されたことにより土地再評価差額金に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額が修正された場合、当該修正差額は第 51 項(1)又は(2)に従って当該税法が改正された年度において、純資産の部の評価・換算差額等(土地再評価差額金)又はその他の包括利益を相手勘定として計上する。
55. 税法が改正されたことにより諸準備金等に係る繰延税金負債の額が修正された場合、当該修正差額は当該税法が改正された年度において、法人税等調整額を相手勘定として処理するとともに、同額の諸準備金等を計上する(又は取り崩す)([設例 1]及び[設例 2])。
56. 未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額については、税法の改正に伴い税率等が変更されても修正しない。

【税効果会計に係る会計基準の適用指針②へ続く】

 

税効果会計に係る会計基準

第一 税効果会計の目的

 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という。)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続である。(注1)

第二 税効果会計に係る会計基準

一 一時差異等の認識

法人税等については、一時差異に係る税金の額を適切な会計期間に配分し、計上しなければならない。
  
一時差異とは、貸借対照表及び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額をいう。
 一時差異は、例えば、次のような場合に生ずる。
(1)  財務諸表上の一時差異
○  収益又は費用の帰属年度が相違する場合
○  資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され、かつ、課税所得の計算に含まれていない場合
(2)  連結財務諸表固有の一時差異
○  資本連結に際し、子会社の資産及び負債の時価評価により評価差額が生じた場合
○  連結会社相互間の取引から生ずる未実現損益を消去した場合
○  連結会社相互間の債権と債務の相殺消去により貸倒引当金を減額修正した場合
一時差異には、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を減額する効果を持つもの(以下「将来減算一時差異」という。)と、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を増額する効果を持つもの(以下「将来加算一時差異」という。)とがある。(注2)(注3)
  
将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金等については、一時差異と同様に取り扱うものとする(以下一時差異及び繰越欠損金等を総称して「一時差異等」という。)。


二 繰延税金資産及び繰延税金負債等の計上方法

一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない。繰延税金資産については、将来の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならない。(注4)(注5)
  
繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとする。(注6)
  
繰延税金資産と繰延税金負債の差額を期首と期末で比較した増減額は、当期に納付すべき法人税等の調整額として計上しなければならない。
 ただし、資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上される場合には、当該評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を当該評価差額から控除して計上するものとする。また、資本連結に際し、子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額がある場合には、当該評価差額に係る時価評価時点の繰延税金資産又は繰延税金負債を当該評価差額から控除した額をもって、親会社の投資額と相殺の対象となる子会社の資本とするものとする。(注7)
  
連結財務諸表及び中間連結財務諸表の作成上、子会社の留保利益について、親会社に対して配当される可能性が高くその金額を合理的に見積もることができる場合には、将来、親会社が子会社からの受取配当金について負担することになる税金の額を見積計上し、これに対応する金額を繰延税金負債として計上しなければならない。
  
中間財務諸表及び中間連結財務諸表の作成上、法人税等は、中間会計期間を含む事業年度の法人税等の計算に適用される税率に基づき、年度決算と同様に税効果会計を適用して計算するものとする。ただし、中間会計期間を含む事業年度の税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積もり、法人税等を控除する前の中間純利益に当該見積実効税率を乗じて計算することができる。


第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法

繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならない。ただし、特定の資産・負債に関連しない繰越欠損金等に係る繰延税金資産については、翌期に解消される見込みの一時差異等に係るものは流動資産として、それ以外の一時差異等に係るものは投資その他の資産として表示しなければならない。
  
流動資産に属する繰延税金資産と流動負債に属する繰延税金負債がある場合及び投資その他の資産に属する繰延税金資産と固定負債に属する繰延税金負債がある場合には、それぞれ相殺して表示するものとする。
 ただし、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、原則として相殺してはならない。
  
当期の法人税等として納付すべき額及び法人税等調整額は、法人税等を控除する前の当期純利益から控除する形式により、それぞれ区分して表示しなければならない。


第四 注記事項

 財務諸表及び連結財務諸表については、次の事項を注記しなければならない。

繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(注8)
  
税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳
  
税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
  
決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響


税効果会計に係る会計基準注解

 

(注1)法人税等の範囲
 法人税等には、法人税のほか、都道府県民税、市町村民税及び利益に関連する金額を課税標準とする事業税が含まれる。

(注2)将来減算一時差異について
 将来減算一時差異は、例えば、貸倒引当金、退職給付引当金等の引当金の損金算入限度超過額、減価償却費の損金算入限度超過額、損金に算入されない棚卸資産等に係る評価損等がある場合のほか、連結会社相互間の取引から生ずる未実現利益を消去した場合に生ずる。

(注3)将来加算一時差異について
 将来加算一時差異は、例えば、利益処分により租税特別措置法上の諸準備金等を計上した場合のほか、連結会社相互間の債権と債務の消去により貸倒引当金を減額した場合に生ずる。

(注4)繰延税金資産及び繰延税金負債の計上に係る重要性の原則の適用について
 重要性が乏しい一時差異等については、繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しないことができる。

(注5)繰延税金資産の計上について
 繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。

(注6)税率の変更があった場合の取扱いについて
 法人税等について税率の変更があった場合には、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率に基づき再計算するものとする。

(注7)繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正した場合の取扱いについて
 法人税等について税率の変更があったこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債(資本連結に際し、子会社の資産及び負債の時価評価により生じた評価差額に係るものを含む。)の金額を修正した場合には、修正差額を法人税等調整額に加減して処理するものとする。ただし、資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上される場合において、当該評価差額に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を修正したときは、修正差額を評価差額に加減して処理するものとする。

(注8)繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記について
 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するに当たっては、繰延税金資産から控除された額(注5に係るもの)を併せて記載するものとする。
  

収益認識に関する会計基準 平成 30 年 3 月 30 日(企業会計基準第 29 号 )

 目 的

1. 本会計基準は、本会計基準の範囲(第 3 項及び第 4 項参照)に定める収益に関する会計 処理及び開示について定めることを目的とする。なお、本会計基準の範囲に定める収益に 関する会計処理については、「企業会計原則」に定めがあるが、本会計基準が優先して適用 される。

2. 平成 30 年 3 月に、本会計基準を適用する際の指針を定めた企業会計基準適用指針第 30 号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」という。)が公表されてい る。本会計基準の適用にあたっては、当該適用指針も参照する必要がある。

会計基準

Ⅰ.範 囲

3. 本会計基準は、次の(1)から(6)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理 及び開示に適用される。 (1) 企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」と いう。)の範囲に含まれる金融商品に係る取引 (2) 企業会計基準第 13 号「リース取引に関する会計基準」(以下「リース会計基準」と いう。)の範囲に含まれるリース取引 (3) 保険法(平成 20 年法律第 56 号)における定義を満たす保険契約 (4) 顧客又は潜在的な顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又 は製品の交換取引(例えば、2 つの企業の間で、異なる場所における顧客からの需要 を適時に満たすために商品又は製品を交換する契約) (5) 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料 (6) 日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 15 号「特別目的会社を活用した不動産 の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(以下「不動産流動化実務指針」 という。)の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む。)の譲渡

4. 顧客との契約の一部が前項(1)から(6)に該当する場合には、前項(1)から(6)に適用され る方法で処理する額を除いた取引価格について、本会計基準を適用する。

Ⅱ.用語の定義

5. 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における 取決めをいう。

6. 「顧客」とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財 又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう。

7. 「履行義務」とは、顧客との契約において、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。 (1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束) (2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパター ンが同じである複数の財又はサービス)

8. 「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む 対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう。

9. 「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格を いう。

10. 「契約資産」とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対す る企業の権利(ただし、債権を除く。)をいう。

11. 「契約負債」とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客 から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいう。

12. 「債権」とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企 業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいう。

13. 「工事契約」とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、 造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うも のをいう。

14. 「受注制作のソフトウェア」とは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制 作され、提供されるソフトウェアをいう。

15. 「原価回収基準」とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが 見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいう。

Ⅲ.会計処理

1.基本となる原則

16. 本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又は サービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識する ことである。

17. 前項の基本となる原則に従って収益を認識するために、次の(1)から(5)のステップを適 用する(適用指針[設例 1])。 (1) 顧客との契約を識別する(第 19 項から第 31 項参照)。 本会計基準の定めは、顧客と合意し、かつ、所定の要件を満たす契約に適用する。 (2) 契約における履行義務を識別する(第 32 項から第 34 項参照)。 契約において顧客への移転を約束した財又はサービスが、所定の要件を満たす場合 には別個のものであるとして、当該約束を履行義務として区分して識別する。 (3) 取引価格を算定する(第 47 項から第 64 項参照)。 変動対価又は現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響及び顧客に支払わ - 5 - れる対価について調整を行い、取引価格を算定する。 (4) 契約における履行義務に取引価格を配分する(第 65 項から第 76 項参照)。 契約において約束した別個の財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、それ ぞれの履行義務に取引価格を配分する。独立販売価格を直接観察できない場合には、 独立販売価格を見積る。 (5) 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する(第 35 項から第 45 項参照)。 約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又 は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識する。履行義務 は、所定の要件を満たす場合には一定の期間にわたり充足され、所定の要件を満たさ ない場合には一時点で充足される。

18. 本会計基準の定め(適用指針第 92 項から第 104 項に定める重要性等に関する代替的な 取扱いを含む。)は、顧客との個々の契約を対象として適用する。 ただし、本会計基準の定めを複数の特性の類似した契約又は履行義務から構成されるグ ループ全体を対象として適用することによる財務諸表上の影響が、当該グループの中の 個々の契約又は履行義務を対象として適用することによる影響と比較して重要性のある 差異を生じさせないことが合理的に見込まれる場合に限り、当該グループ全体を対象とし て本会計基準の定めを適用することができる。この場合、当該グループの規模及び構成要 素を反映する見積り及び仮定を用いる。

2.収益の認識基準

(1)契約の識別

19. 本会計基準を適用するにあたっては、次の(1)から(5)の要件のすべてを満たす顧客との 契約を識別する。 (1) 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を 約束していること (2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること (3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること (4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシ ュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること) (5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収 する可能性が高いこと 当該対価を回収する可能性の評価にあたっては、対価の支払期限到来時における顧 客が支払う意思と能力を考慮する(適用指針[設例 2])。

20. 契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決 めをいう(第 5 項参照)。契約における権利及び義務の強制力は法的な概念に基づくもの - 6 - であり、契約は書面、口頭、取引慣行等により成立する。顧客との契約締結に関する慣行 及び手続は、国、業種又は企業により異なり、同一企業内でも異なる場合がある(例えば、 顧客の属性や、約束した財又はサービスの性質により異なる場合がある。)。そのため、そ れらを考慮して、顧客との合意が強制力のある権利及び義務を生じさせるのかどうか並び にいつ生じさせるのかを判断する。

21. 本会計基準は、契約の当事者が現在の強制力のある権利及び義務を有している契約の存 続期間を対象として適用される。

22. 契約の当事者のそれぞれが、他の当事者に補償することなく完全に未履行の契約を解約 する一方的で強制力のある権利を有している場合には、当該契約に本会計基準を適用しな い。 完全に未履行の契約とは、次の(1)及び(2)のいずれも満たす契約である。 (1) 企業が約束した財又はサービスを顧客に未だ移転していない。 (2) 企業が、約束した財又はサービスと交換に、対価を未だ受け取っておらず、対価を 受け取る権利も未だ得ていない。

23. 顧客との契約が契約における取引開始日において第 19 項の要件を満たす場合には、事 実及び状況の重要な変化の兆候がない限り、当該要件を満たすかどうかについて見直しを 行わない。

24. 顧客との契約が第 19 項の要件を満たさない場合には、当該要件を事後的に満たすかど うかを引き続き評価し、顧客との契約が当該要件を満たしたときに本会計基準を適用する。

25. 顧客との契約が第 19 項の要件を満たさない場合において、顧客から対価を受け取った 際には、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するときに、受け取った対価を収益として認識 する。 (1) 財又はサービスを顧客に移転する残りの義務がなく、約束した対価のほとんどすべ てを受け取っており、顧客への返金は不要であること (2) 契約が解約されており、顧客から受け取った対価の返金は不要であること

26. 顧客から受け取った対価については、前項(1)又は(2)のいずれかに該当するまで、ある いは、第 19 項の要件が事後的に満たされるまで(第 24 項参照)、将来における財又はサ ービスを移転する義務又は対価を返金する義務として、負債を認識する。

(2)契約の結合

27. 同一の顧客(当該顧客の関連当事者を含む。)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約 について、次の(1)から(3)のいずれかに該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単 一の契約とみなして処理する。 (1) 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと (2) 1 つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を 受けること - 7 - (3) 当該複数の契約において約束した財又はサービスが、第 32 項から第 34 項に従うと 単一の履行義務となること

(3)契約変更

28. 契約変更は、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更 であり、契約の当事者が、契約の当事者の強制力のある権利及び義務を新たに生じさせる 変更又は既存の強制力のある権利及び義務を変化させる変更を承認した場合に生じるも のである。 契約の当事者が契約変更を承認していない場合には、契約変更が承認されるまで、本会 計基準を既存の契約に引き続き適用する。

29. 契約の当事者が契約の範囲の変更を承認したが、変更された契約の範囲に対応する価格 の変更を決定していない場合には、第 50 項から第 52 項及び第 54 項に従って、当該契約 変更による取引価格の変更を見積る。

30. 契約変更について、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、当該契約変更を 独立した契約として処理する。 (1) 別個の財又はサービス(第 34 項参照)の追加により、契約の範囲が拡大されること (2) 変更される契約の価格が、追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格 に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること

31. 契約変更が前項の要件を満たさず、独立した契約として処理されない場合には、契約変 更日において未だ移転していない財又はサービスについて、それぞれ次の(1)から(3)のい ずれかの方法により処理する。 (1) 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービス と別個のものである場合には、契約変更を既存の契約を解約して新しい契約を締結し たものと仮定して処理する。残存履行義務に配分すべき対価の額は、次の①及び②の 合計額とする(適用指針[設例 3])。 ① 顧客が約束した対価(顧客から既に受け取った額を含む。)のうち、取引価格の 見積りに含まれているが収益として認識されていない額 ② 契約変更の一部として約束された対価 (2) 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービス と別個のものではなく、契約変更日において部分的に充足されている単一の履行義務 の一部を構成する場合には、契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理する。 これにより、完全な履行義務の充足に向けて財又はサービスに対する支配(第 37 項 参照)を顧客に移転する際の企業の履行を描写する進捗度(以下「履行義務の充足に 係る進捗度」という。)及び取引価格が変更される場合は、契約変更日において収益の 額を累積的な影響に基づき修正する(適用指針[設例 4])。 (3) 未だ移転していない財又はサービスが(1)と(2)の両方を含む場合には、契約変更が - 8 - 変更後の契約における未充足の履行義務に与える影響を、それぞれ(1)又は(2)の方法 に基づき処理する。

(4)履行義務の識別

32. 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、 次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識 別する(第 7 項参照)。 (1) 別個の財又はサービス(第 34 項参照)(あるいは別個の財又はサービスの束) (2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパター ンが同じである複数の財又はサービス)(第 33 項参照)

33. 前項(2)における一連の別個の財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満 たす場合には、顧客への移転のパターンが同じであるものとする。 (1) 一連の別個の財又はサービスのそれぞれが、第 38 項における一定の期間にわたり 充足される履行義務の要件を満たすこと (2) 第 41 項及び第 42 項に従って、履行義務の充足に係る進捗度の見積りに、同一の方 法が使用されること (別個の財又はサービス)

34. 顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、 別個のものとする(適用指針[設例 5]、[設例 6]、[設例 16]、[設例 24]及び[設例 25])。 (1) 当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、 当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益 を享受することができること(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可 能性があること) (2) 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して 識別できること(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点 において別個のものとなること)

(5)履行義務の充足による収益の認識

35. 企業は約束した財又はサービス(本会計基準において、顧客との契約の対象となる財又 はサービスについて、以下「資産」と記載することもある。)を顧客に移転することにより 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。資産が移転するのは、 顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである。

36. 契約における取引開始日に、第 38 項及び第 39 項に従って、識別された履行義務のそれ ぞれが、一定の期間にわたり充足されるものか又は一時点で充足されるものかを判定する。

37. 資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとん - 9 - どすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受すること を妨げる能力を含む。)をいう。

(一定の期間にわたり充足される履行義務)

38. 次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間 にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(適 用指針[設例 7])。 (1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること (2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の 価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当 該資産を支配すること(適用指針[設例 4]) (3) 次の要件のいずれも満たすこと(適用指針[設例 8]) ① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用する ことができない資産が生じること ② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受 する強制力のある権利を有していること

(一時点で充足される履行義務)

39. 前項(1)から(3)の要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足される ものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に 移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識する。

40. 資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定するにあたっては、第 37 項の定めを考 慮する。また、支配の移転を検討する際には、例えば、次の(1)から(5)の指標を考慮する。 (1) 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること (2) 顧客が資産に対する法的所有権を有していること (3) 企業が資産の物理的占有を移転したこと (4) 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること (5) 顧客が資産を検収したこと

(履行義務の充足に係る進捗度)

41. 一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見 積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識する。

42. 一定の期間にわたり充足される履行義務については、単一の方法で履行義務の充足に係 る進捗度を見積り、類似の履行義務及び状況に首尾一貫した方法を適用する。

43. 履行義務の充足に係る進捗度は、各決算日に見直し、当該進捗度の見積りを変更する場 合は、会計上の見積りの変更(企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関す - 10 - る会計基準」第 4 項(7))として処理する。

44. 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間に わたり充足される履行義務について収益を認識する。

45. 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足 する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義務の充足に係る進捗 度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務につい て原価回収基準により処理する。

3.収益の額の算定

(1)取引価格に基づく収益の額の算定

46. 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、取引価格(第 54 項の定めを考慮する。) のうち、当該履行義務に配分した額について収益を認識する。

(2)取引価格の算定

47. 取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価 の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう(第 8 項参照)(適用指針[設例 27]及び[設例 29])。取引価格の算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮する。

48. 顧客により約束された対価の性質、時期及び金額は、取引価格の見積りに影響を与える。 取引価格を算定する際には、次の(1)から(4)のすべての影響を考慮する。 (1) 変動対価(第 50 項から第 55 項参照) (2) 契約における重要な金融要素(第 56 項から第 58 項参照) (3) 現金以外の対価(第 59 項から第 62 項参照) (4) 顧客に支払われる対価(第 63 項及び第 64 項参照)

49. 取引価格を算定する際には、財又はサービスが契約に従って顧客に移転され、契約の取 消、更新又は変更はないものと仮定する。

(変動対価)

50. 顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」という。契約にお いて、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と 交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積る。

51. 変動対価の額の見積りにあたっては、発生し得ると考えられる対価の額における最も可 能性の高い単一の金額(最頻値)による方法又は発生し得ると考えられる対価の額を確率 で加重平均した金額(期待値)による方法のいずれかのうち、企業が権利を得ることとな る対価の額をより適切に予測できる方法を用いる(適用指針[設例 10]、[設例 11]及び[設 例 12])。

52. 変動対価の額に関する不確実性の影響を見積るにあたっては、契約全体を通じて単一の - 11 - 方法を首尾一貫して適用する。また、企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮し、 発生し得ると考えられる対価の額について合理的な数のシナリオを識別する。

53. 顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む 場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額につい て、返金負債を認識する。返金負債の額は、各決算日に見直す(適用指針[設例 11])。

54. 第 51 項に従って見積られた変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性 が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生し ない可能性が高い部分に限り、取引価格に含める(適用指針[設例 3]、[設例 4]、[設例 11]、 [設例 12]及び[設例 13])。

55. 見積った取引価格は、各決算日に見直し、取引価格が変動する場合には、第 74 項から第 76 項の定めを適用する(適用指針[設例 3]、[設例 4]及び[設例 12-2])。

(契約における重要な金融要素)

56. 契約の当事者が明示的又は黙示的に合意した支払時期により、財又はサービスの顧客へ の移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客 との契約は重要な金融要素を含むものとする。

57. 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、取引価格の算定にあたっては、約束し た対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する。収益は、約束した財又はサービスが 顧客に移転した時点で(又は移転するにつれて)、当該財又はサービスに対して顧客が支払 うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で認識する。

58. 契約における取引開始日において、約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧 客が支払を行う時点の間が 1 年以内であると見込まれる場合には、重要な金融要素の影響 について約束した対価の額を調整しないことができる。

(現金以外の対価)

59. 契約における対価が現金以外の場合に取引価格を算定するにあたっては、当該対価を時 価により算定する。

60. 現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には、当該対価と交換に顧 客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として当該対価を算定する。

61. 現金以外の対価の時価が変動する理由が、株価の変動等、対価の種類によるものだけで はない場合(例えば、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動す る場合)には、第 54 項の定めを適用する。

62. 企業による契約の履行に資するために、顧客が財又はサービス(例えば、材料、設備又 は労働)を企業に提供する場合には、企業は、顧客から提供された財又はサービスに対す る支配を獲得するかどうかを判定する。顧客から提供された財又はサービスに対する支配 を獲得する場合には、当該財又はサービスを、顧客から受け取る現金以外の対価として処理する。

(顧客に支払われる対価)

63. 顧客に支払われる対価は、企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入 する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業(ある いは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対する債務額に充当できる もの(例えば、クーポン)の額を含む。 顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる ものである場合を除き、取引価格から減額する。顧客に支払われる対価に変動対価が含ま れる場合には、取引価格の見積りを第 50 項から第 54 項に従って行う(適用指針[設例 14])。

64. 顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の(1)又は(2)のいずれか遅 い方が発生した時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額する(適用指針[設例 14])。 (1) 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時 (2) 企業が対価を支払うか又は支払を約束する時(当該支払が将来の事象を条件とする 場合も含む。また、支払の約束は、取引慣行に基づくものも含む。)

(3)履行義務への取引価格の配分

65. それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、財 又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するよ うに行う。

66. 財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、契約において識別したそれぞれの履行 義務に取引価格を配分する。ただし、第 70 項から第 73 項の定めを適用する場合を除く(適 用指針[設例 15-1])。

67. 契約に単一の履行義務しかない場合には、第 68 項から第 73 項の定めを適用しない。た だし、第 32 項(2)に従って一連の別個の財又はサービスを移転する約束が単一の履行義務 として識別され、かつ、約束された対価に変動対価が含まれる場合には、第 72 項及び第 73 項の定めを適用する。

(独立販売価格に基づく配分)

68. 第 66 項に従って財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき取引価格を配分する際 には、契約におけるそれぞれの履行義務の基礎となる別個の財又はサービスについて、契 約における取引開始日の独立販売価格を算定し、取引価格を当該独立販売価格の比率に基 づき配分する。

69. 財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合には、市場の状況、企業固有の 要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力 数値を最大限利用して、独立販売価格を見積る。類似の状況においては、見積方法を首尾一貫して適用する。

(値引きの配分)

70. 契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格 を超える場合には、契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っている ものとして、当該値引きについて、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分 する。

71. 前項の定めにかかわらず、次の(1)から(3)の要件のすべてを満たす場合には、契約にお ける履行義務のうち 1 つ又は複数(ただし、すべてではない。)に値引きを配分する(適用 指針[設例 15])。 (1) 契約における別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)のそれ ぞれを、通常、単独で販売していること (2) 当該別個の財又はサービスのうちの一部を束にしたものについても、通常、それぞ れの束に含まれる財又はサービスの独立販売価格から値引きして販売していること (3) (2)における財又はサービスの束のそれぞれに対する値引きが、当該契約の値引き とほぼ同額であり、それぞれの束に含まれる財又はサービスを評価することにより、 当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があ ること

(変動対価の配分)

72. 次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、変動対価及びその事後的な変動のす べてを、1 つの履行義務あるいは第 32 項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれ る 1 つの別個の財又はサービスに配分する(適用指針[設例 25])。 (1) 変動性のある支払の条件が、当該履行義務を充足するための活動や当該別個の財又 はサービスを移転するための活動(あるいは当該履行義務の充足による特定の結果又 は当該別個の財又はサービスの移転による特定の結果)に個別に関連していること (2) 契約における履行義務及び支払条件のすべてを考慮した場合、変動対価の額のすべ てを当該履行義務あるいは当該別個の財又はサービスに配分することが、企業が権利 を得ると見込む対価の額を描写すること

73. 前項の要件を満たさない残りの取引価格については、第 65 項から第 71 項の定めに従っ て配分する。

(4)取引価格の変動

74. 取引価格の事後的な変動については、契約における取引開始日後の独立販売価格の変動 を考慮せず、契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分する。 取引価格の事後的な変動のうち、既に充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正する(適用指針[設例 13])。

75. 第 72 項の要件のいずれも満たす場合には、取引価格の変動のすべてについて、次の(1) 又は(2)のいずれかに配分する。 (1) 1 つ又は複数の(ただし、すべてではない。)履行義務 (2) 第 32 項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる 1 つ又は複数の(ただし、 すべてではない。)別個の財又はサービス

76. 契約変更によって生じる取引価格の変動は、第 28 項から第 31 項に従って処理する。契 約変更が第 30 項の要件を満たさず、独立した契約として処理されない場合(第 31 項参 照)、当該契約変更を行った後に生じる取引価格の変動について、第 74 項及び第 75 項の 定めに従って、次の(1)又は(2)のいずれかの方法で配分する。 (1) 取引価格の変動が契約変更の前に約束された変動対価の額に起因し、当該契約変更 を第 31 項(1)に従って処理する場合には、取引価格の変動を契約変更の前に識別した 履行義務に配分する(適用指針[設例 3])。 (2) 当該契約変更を第 31 項(1)に従って処理しない場合には、取引価格の変動を契約変 更の直後に充足されていない又は部分的に充足されていない履行義務に配分する。

4.契約資産、契約負債及び債権

77. 顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に、財又はサービスを 顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産又は債権を貸借対照表に計上する。 契約資産は、金銭債権として取り扱うこととし、金融商品会計基準に従って処理する。

78. 財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受 け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取 る対価について契約負債を貸借対照表に計上する。

Ⅳ.開 示

1.表 示

79. 企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企 業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をも って貸借対照表に表示する。 契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する。

2.注記事項

80. 顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内 容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記す る。なお、当該注記は、重要な会計方針の注記には含めず、個別の注記として開示する。

Ⅴ.適用時期等

1.適用時期

81. 本会計基準は、平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から 適用する。

82. ただし、平成 30 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計 基準を適用することができる。

83. 前項の定めに加え、平成 30 年 12 月 31 日に終了する連結会計年度及び事業年度から平 成 31 年 3 月 30 日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財 務諸表及び個別財務諸表から本会計基準を適用することができる。この適用にあたって、 早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に係る四半期(又は中間)連結財務諸表 及び四半期(又は中間)個別財務諸表においては、早期適用した連結会計年度及び事業年 度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表について、本 会計基準を当該年度の期首に遡って適用する。

2.経過措置

84. 本会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取 り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する(以下「原則 的な取扱い」という。)。 ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の 累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計 方針を適用することができる。

85. 本会計基準を原則的な取扱いに従って遡及適用する場合、次の(1)から(4)の方法の 1 つ 又は複数を適用することができる。 (1) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに 従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計 年度の連結財務諸表及び四半期(又は中間)連結財務諸表並びに適用初年度の前事業 年度の個別財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表(以下合わせて「適用初年 度の比較情報」という。)を遡及的に修正しないこと (2) 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額 を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額につい て、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較 情報を遡及的に修正すること (3) 適用初年度の前連結会計年度内及び前事業年度内に開始して終了した契約につい て、適用初年度の前連結会計年度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び適用初年度 の前事業年度の四半期(又は中間)個別財務諸表を遡及的に修正しないこと (4) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の①から③の処 理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること ① 履行義務の充足分及び未充足分の区分 ② 取引価格の算定 ③ 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

86. 第 84 項ただし書きの方法を選択する場合、適用初年度の期首より前までに従前の取扱 いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しな いことができる。 また、第 84 項ただし書きの方法を選択する場合、契約変更について、次の(1)又は(2)の いずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することが できる。 (1) 適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反 映した後の契約条件に基づき、前項(4)の①から③の処理を行うこと (2) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変 更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、前項(4)の①から③ の処理を行うこと

87. 第 84 項から第 86 項の定めにかかわらず、国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準 を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に 本会計基準を適用する場合には、本会計基準の適用初年度において、IFRS 第 15 号「顧客 との契約から生じる収益」(以下「IFRS 第 15 号」という。)又は FASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)の Topic 606「顧客との契約から生じる収益」(以下「Topic 606」という。)のいずれかの経過措置 の定めを適用することができる。 また、第 84 項から第 86 項の定めにかかわらず、IFRS を連結財務諸表に初めて適用する 企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に本会計基準を適用する場合には、 本会計基準の適用初年度において、IFRS 第 1 号「国際財務報告基準の初度適用」(以下「IFRS 第 1 号」という。)における経過措置に関する定めを適用することができる。

88. 本会計基準を第 82 項又は第 83 項に基づき適用する場合は、第 79 項の定めにかかわら ず、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記し ないことができる。

89. 第 47 項の定めに従って、本会計基準の適用初年度において、消費税及び地方消費税(以 下「消費税等」という。)の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基 準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。この場合、適用初年度の期首より前ま でに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額 を控除しないことができる。

3.その他

90. 第 81 項の適用により、次の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告は 廃止する。 (1) 企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」と いう。) (2) 企業会計基準適用指針第 18 号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下「工 事契約適用指針」という。) (3) 実務対応報告第 17 号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱 い」(以下「ソフトウェア取引実務対応報告」という。)

Ⅵ.議 決

91. 本会計基準は、第 381 回企業会計基準委員会に出席した委員 13 名全員の賛成により承 認された。なお、出席した委員は以下のとおりである。 小 野 行 雄(委員長) 小賀坂 敦(副委員長) 川 西 安 喜 安 井 良 太 貝 増 眞 徳 賀 芳 弘 西 山 賢 吾 弥 永 真 生 柳 橋 勝 人 湯 川 喜 雄 吉 田 稔 米 田 和 敬 渡 部 仁

結論の背景

経 緯

92. 我が国においては、企業会計原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売 又は役務の給付によって実現したものに限る。」(企業会計原則 第二 損益計算書原則 三 B)とされているものの、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていなか った。 一方、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して 収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成 26 年(2014 年)5 月に「顧客との 契約から生じる収益」(IASB においては IFRS 第 15 号、FASB においては Topic 606)を公 表している。両基準は、文言レベルで概ね同一の基準となっており、当該基準の適用後、 IFRS と米国会計基準により作成される財務諸表における収益の額は当該基準により報告 されることとなる。 売上高、営業収入等、その呼称は業種や取引の種類により異なるが、収益は、企業の主 な営業活動からの成果を表示するものとして、企業の経営成績を表示するうえで重要な財 務情報と考えられる。 これらの状況を踏まえ、当委員会は、平成 27 年 3 月に開催された第 308 回企業会計基 準委員会において、IFRS 第 15 号を踏まえた我が国における収益認識に関する包括的な会 計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し検討を開始した。

93. 当委員会では、検討の初期の段階で適用上の課題や今後の検討の進め方に対する意見を 幅広く把握するため、平成 28 年 2 月に「収益認識に関する包括的な会計基準の開発につ いての意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を公表した(平成 28 年 4 月に一部改 訂している。)。 意見募集文書では、次の事項を、収益認識に関する包括的な会計基準の開発の意義とし て掲げている。 (1) 我が国の会計基準の体系の整備 (2) 企業間の財務諸表の比較可能性の向上 (3) 企業により開示される情報の充実 意見募集文書に対して 33 通のコメント・レターが寄せられ、コメント・レターの大半は IFRS第 15号の内容を出発点とした当該基準の開発を全般的には支持するものであったが、 適用上の課題も多く寄せられた。 当委員会では、これらの意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、課題の抽出を行い、 それらを検討したうえで、平成 29 年 7 月に企業会計基準公開草案第 61 号「収益認識に関 する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第 61 号「収益認識に関する会計 基準の適用指針(案)」を公表して広く意見を求めた。本会計基準は、公開草案に対して寄 せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正したうえで公表するに至 - 19 - ったものである。

94. なお、当委員会は、平成 28 年 8 月に中期運営方針を公表している。当該中期運営方針 においては、我が国の上場企業等で用いられる会計基準の質の向上を図るために、日本基 準を高品質で国際的に整合性のとれたものとして維持・向上を図ることを方針として掲げ ており、本会計基準の内容は、当該中期運営方針に沿ったものである。

95. また、本会計基準の適用により、次の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対 応報告は廃止される。 (1) 工事契約会計基準 (2) 工事契約適用指針 (3) ソフトウェア取引実務対応報告

96. 本会計基準の実務への適用を検討する過程で、本会計基準における定めが明確であるも のの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別さ れ、その旨当委員会に提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの 要否を当委員会において判断することとした。

開発にあたっての基本的な方針

97. 当委員会では、収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、 IFRS 第 15 号と整合性を図る便益の 1 つである国内外の企業間における財務諸表の比較可 能性の観点から、IFRS 第 15 号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準 を定めることとした。また、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目があ る場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加することとした。

98. 前項の方針の下、連結財務諸表に関して、次の開発の方針を定めた。 (1) IFRS 第 15 号の定めを基本的にすべて取り入れる。 (2) 適用上の課題に対応するために、代替的な取扱いを追加的に定める。代替的な取扱 いを追加的に定める場合、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとすること を基本とする。 (1)の方針を定めた理由は、次のとおりである。 ① 収益認識に関する包括的な会計基準の開発の意義の 1 つとして、国際的な比較 可能性の確保が重要なものと考えられること ② IFRS 第 15 号は、5 つのステップに基づき、履行義務の識別、取引価格の配分、 支配の移転による収益認識等を定めており、部分的に採用することが困難である と考えられること

99. 連結財務諸表に関する方針を前項のとおり定めたうえで個別財務諸表の取扱いについ て審議がなされた。審議の過程では、次のとおり、さまざまな意見が聞かれた。 (1) 経営管理の観点からは、連結財務諸表と個別財務諸表の取扱いは同一の内容とする ことが好ましい。 (2) IFRS 又は米国会計基準により連結財務諸表を作成している企業にとっては、個別財 務諸表も、IFRS 第 15 号又は Topic 606 を基礎とした内容とすることが好ましい。 (3) 個別財務諸表については、中小規模の上場企業や連結子会社を含むさまざまな企業 に影響を及ぼすため、可能な限り簡素な定めとして、本会計基準の導入時及び適用時 のコストを軽減すべきである。 (4) 個別財務諸表における金額は、関連諸法規等に用いられ、特に法人税法上の課税所 得計算の基礎となるため、法人税との関係に配慮すべきである。 この点、次を理由に、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処 理を定めることとした。 ① 当委員会において、これまでに開発してきた会計基準では、基本的に連結財務 諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めてきたこと ② 連結財務諸表と個別財務諸表で同一の内容としない場合、企業が連結財務諸表 を作成する際の連結調整に係るコストが生じる。一方、連結財務諸表と個別財務 諸表で同一の内容とする場合、中小規模の上場企業や連結子会社等における負担 が懸念されるが、重要性等に関する代替的な取扱いの定めを置くこと等により一 定程度実務における対応が可能となること

100. 本会計基準は、上記の基本的な方針の下で開発しており、次の構成としている。 (1) 基本的に IFRS 第 15 号の会計基準の内容を基礎とした定め ① 本会計基準のうち第 16 項から第 79 項 ② 適用指針のうち第 4 項から第 89 項及び第 105 項 (2) 追加的に定めた代替的な取扱い 適用指針のうち第 92 項から第 104 項

101. なお、他の会計基準と同様に、重要性が乏しい取引には、本会計基準を適用しないこと ができる。

Ⅰ.範 囲

102. 本会計基準で取り扱う範囲は、IFRS 第 15 号と同様に、顧客との契約から生じる収益と し、顧客との契約から生じるものではない取引又は事象から生じる収益は、本会計基準で 取り扱わないこととした。 契約の相手方が、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである 財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者である顧客(第 6 項参照)である 場合にのみ、本会計基準が適用される。

103. 顧客との契約から生じる収益のうち、金融商品会計基準の範囲に含まれる利息、金融商 品の消滅の認識時に発生する利益等の金融商品に係る取引は、IFRS 第 15 号と同様に、本 会計基準の適用範囲に含めないこととした(第 3 項(1)参照)。

104. 顧客との契約から生じる収益のうち、リース会計基準の範囲に含まれるリース取引(貸 - 21 - 手の会計処理)は、IFRS 第 15 号と同様に、本会計基準の適用範囲に含めないこととした (第 3 項(2)参照)。なお、ライセンスの供与については、本会計基準の適用範囲に含まれ るが、リース会計基準に従って処理される契約の取扱いを変えることを意図するものでは ない。 また、本会計基準で割賦基準による収益認識が認められていないことは、仮にリース取 引における貸手の会計処理の検討が行われる際には、ファイナンス・リース取引に係る貸 手の会計処理のうち、リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法に関する定め (企業会計基準適用指針第 16 号「リース取引に関する会計基準の適用指針」第 51 項(2) 及び第 61 項)及び貸手の製作価額又は現金購入価額と借手に対する現金販売価額に差が ある場合に、当該差額である販売益を販売基準又は割賦基準により処理する定め(同第 56 項及び第 66 項)等に影響し得る。リース取引に関する会計基準については、今後、国際的 な会計基準(IFRS 第 16 号「リース」)との整合性の観点から、会計基準の改訂に向けた検 討に着手するか否かの検討を行う予定であり、当該貸手の会計処理については、当該検討 に含めて行う予定である。

105. 保険契約については、現行の我が国における会計基準においてその会計処理を定めたも のはないが、IFRS 第 15 号と同様に、本会計基準の適用範囲に含めないこととした(第 3 項(3)参照)。

106. 顧客又は潜在的な顧客への販売を容易にするために行われる同業他社との商品又は製 品の交換取引については、商品又は製品を交換する同業他社は、企業の通常の営業活動に より生じたアウトプットを獲得するために企業と契約しているため、顧客の定義に該当す るが、IFRS 第 15 号と同様に、本会計基準の適用範囲に含めないこととした(第 3 項(4)参 照)。IFRS 第 15 号においては、同業他社との棚卸資産の交換について収益を認識し、その 後で再び最終顧客に対する棚卸資産の販売について収益を認識すると、収益及び費用を二 重に計上することになり、財務諸表利用者が企業による履行及び粗利益を評価することが 困難となるため適切ではないとされている。我が国においては、棚卸資産の交換取引に関 する会計処理の定めが明示されていないが、IFRS 第 15 号と同様に、同業他社との棚卸資 産の交換について収益を認識することは適切ではないと考えられる。

107. 金融商品に関する会計基準については、今後、国際的な会計基準(IFRS 第 9 号「金融商 品」)との整合性の観点から、会計基準の改訂に向けた検討に着手するか否かの検討を行う 予定である。顧客との契約から生じる収益に該当する金融商品の組成又は取得に際して受 け取る手数料については、金融商品に関する会計基準を改訂する場合には、その会計処理 が変わる可能性があるため、本会計基準の適用範囲から除外している(第 3 項(5)参照)。

108. IFRS においては、企業の通常の営業活動により生じたアウトプットではない固定資産の 売却について、IFRS 第 15 号と同様の収益の認識を行うよう IAS 第 16 号「有形固定資産」 が改正されたが、本会計基準においては、企業の通常の営業活動により生じたアウトプッ トではない固定資産の売却については、論点が異なり得るため改正の範囲に含めておらず、本会計基準の適用範囲に含まれない。また、企業の通常の営業活動により生じたアウトプ ットとなる不動産の売却は、本会計基準の適用範囲に含まれるが、当該不動産の売却のう ち、不動産流動化実務指針の対象となる不動産(不動産信託受益権を含む。)の譲渡に係る 会計処理は、連結の範囲等の検討と関連するため、本会計基準の適用範囲から除外してい る(第 3 項(6)参照)。

109. 本会計基準では、棚卸資産や固定資産等、コストの資産化等の定めが IFRS の体系とは 異なるため、IFRS 第 15 号における契約コスト(契約獲得の増分コスト及び契約を履行す るためのコスト)の定めを範囲に含めていない。 ただし、IFRS 又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業が当該企業の個別財 務諸表に本会計基準を適用する場合には、契約コストの会計処理を連結財務諸表と個別財 務諸表で異なるものとすることは実務上の負担を生じさせると考えられるため、個別財務 諸表において IFRS 第 15 号又は Topic 606 における契約コストの定めに従った処理をする ことは妨げられないものとした。 また、IFRS 又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業の連結子会社が当該連 結子会社の連結財務諸表及び個別財務諸表に本会計基準を適用する場合にも、契約コスト の会計処理を親会社の連結財務諸表における会計処理と異なるものとすることは実務上 の負担を生じさせると考えられるため、連結財務諸表及び個別財務諸表において IFRS 第 15 号又は Topic 606 における契約コストの定めに従った処理をすることは妨げられない ものとした。

Ⅱ.用語の定義

110. 本会計基準では、IFRS 第 15 号における用語の定義のうち、必要と考えられるものにつ いて、本会計基準の用語の定義に含めている(第 5 項から第 12 項参照)。

111. 本会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される (顧客の定義は第 6 項参照)。例えば、企業の通常の営業活動により生じたアウトプット である財又はサービスを獲得するためではなく、リスクと便益を契約当事者で共有する活 動又はプロセス(提携契約に基づく共同研究開発等)に参加するために企業と契約を締結 する当該契約の相手方は、顧客ではなく、当該契約に本会計基準は適用されない。

112. 工事契約については、工事契約会計基準における定義を踏襲している(第 13 項参照)。 なお、請負契約ではあっても専らサービスの提供を目的とする契約や、外形上は工事契約 に類似する契約であっても、工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような 契約は、工事契約会計基準と同様に、工事契約に含まれない。

b113. 受注制作のソフトウェアの範囲については、工事契約会計基準と同様に、「研究開発費等 に係る会計基準」(平成 10 年 3 月 企業会計審議会)及びソフトウェア取引実務対応報告 を踏襲している(第 14 項参照)。

Ⅲ.会計処理等

(IFRS 第 15 号の定め及び結論の根拠を基礎としたもの)

114. 第 100 項に記載したとおり、本会計基準の本文のうち第 16 項から第 79 項は、基本的に IFRS 第 15 号における会計基準の内容を基礎としており、結論の背景についても、第 115 項から第 150 項は、IFRS 第 15 号における会計基準及び結論の根拠を基礎としている。

1.基本となる原則

115. 本会計基準では、IFRS 第 15 号と同様に、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・ フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する有用な情報を財務諸表利用者に報告する ために、基本となる原則を示している(第 16 項参照)。また、本会計基準では、市場関係 者の理解に資するために、基本となる原則に従って収益を認識するための 5 つのステップ を示している(第 17 項参照)。

116. 本会計基準の定め(適用指針第 92 項から第 104 項に定める重要性等に関する代替的な 取扱いを含む。)は、顧客との個々の契約を対象として適用する。ただし、企業が多数の類 似した契約又は履行義務を有していることもあり、実務的な方法として、本会計基準を特 性の類似した契約又は履行義務から構成されるグループ全体に適用する(例えば、当該グ ループを収益認識の単位又は収益の額の算定単位として用いる。)ことによる財務諸表上 の影響が、当該グループの中の個々の契約又は履行義務を対象として本会計基準の定めを 適用することによる影響と比較して重要性のある差異を生じさせないことが合理的に見 込まれる場合に限り、個々の契約又は履行義務を対象とせず、当該グループ全体を対象と して本会計基準の定めを適用することを認めている(第 18 項参照)。 例えば、特性の類似した複数の契約に含まれる財及びサービスのそれぞれが履行義務と して識別され、当該履行義務に取引価格を配分する際には、原則として、個々の契約につ いて、財及びサービスのそれぞれの独立販売価格の比率に基づくこととなる。ただし、個々 の契約に基づき配分された取引価格との差異が財務諸表上の重要性のある影響を生じさ せないことが合理的に見込まれる場合には、類似した複数の契約を 1 つのグループとし、 当該グループに含まれる財及びサービスの独立販売価格の合計と取引価格の合計との比 率を用いて、当該グループに含まれる各契約の財及びサービスの独立販売価格から当該財 及びサービスに配分される取引価格を算定する方法も認められる。

2.収益の認識基準

(1)契約の識別

117. 本会計基準が適用される顧客との契約は、第 19 項に定める 5 つの要件のすべてを満た す顧客との契約である。当該要件の 1 つである顧客に移転する財又はサービスと交換に企 業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと(第 19 項(5)参照)を評価す る際に、企業が顧客に価格の引下げを提供する可能性があることにより対価に変動性があ る場合には、企業が権利を得ることとなる対価の額は契約に記載される価格よりも低くな ることを考慮する。 なお、対価を回収する「可能性が高い」ことについて、IFRS 第 15 号では“probable” という表現が用いられている。ここで、IFRS における“probable”の意味に照らすと、対 価を回収する可能性の方が回収できない可能性よりも高いこと(more likely than not) を示すこととなるが、我が国の実務では、契約の締結可否を判断するにあたって回収可能 性を検討する際に、それよりも高い閾値に基づき判断していることに鑑み、「可能性が高 い」という表現を用いている。

118. 顧客から対価を回収する可能性を評価する際には、顧客の財務上の支払能力及び顧客が 対価を支払う意思を考慮する(第 19 項(5)参照)。顧客が対価を支払う意思の評価にあた っては、対価の支払期限が到来している(すなわち、対応する履行義務が充足され、企業 が権利を有する対価が変動しない。)と仮定したうえで、顧客又は同種の顧客グループの過 去の慣行を含むすべての事実及び状況を考慮する必要がある。

119. 契約の中には、固定された存続期間がなく、契約の当事者のそれぞれがいつでも終了又 は変更できるものや、契約に定められた一定期間ごとに自動更新となるものがあるが、本 会計基準は、契約の当事者が現在の強制力のある権利及び義務を有している契約の存続期 間を対象として適用される(第 21 項参照)。

120. 顧客との契約が契約における取引開始日において第 19 項の要件を満たす場合には、事 実及び状況の重要な変化の兆候がない限り、当該要件を満たすかどうかについて見直しを 行わない(第 23 項参照)が、例えば、顧客が対価を支払う能力が著しく低下した場合に は、顧客に移転する残りの財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回 収する可能性が高いかどうかについて見直しを行う。なお、既に認識した収益、債権又は 契約資産は、当該見直しの対象とはならない。

(2)契約の結合

121. 複数の契約は、区分して処理するか単一の契約として処理するかにより収益認識の時期 及び金額が異なる可能性があるため、第 27 項の要件を満たす場合には、複数の契約を結 合して単一の契約として処理する。

(3)契約変更

122. 契約変更は、契約の当事者による承認により生じるものであり、当該承認は、書面や口 頭による合意で行われる場合もあれば、取引慣行により含意される場合もある。 契約の当事者が契約変更の範囲又は価格(あるいはその両方)について合意していない 場合や、契約の当事者が契約の範囲の変更を承認したが、変更された契約の範囲に対応す る価格の変更を決定していない場合でも、契約変更は生じる可能性がある。契約変更によ り新たに生じる又は変化する権利及び義務が強制力のあるものかどうかを判定するにあたっては、契約条件並びにすべての関連する事実及び状況を考慮する。

123. 第 30 項(1)及び(2)の要件のいずれも満たす契約変更は、追加的に約束した財又はサー ビスに関する独立した契約を締結した場合と取引の実態に相違がないため、当該契約変更 を独立した契約として処理する。

124. 契約変更を独立した契約として処理する要件の 1 つとして、変更される契約の価格が、 追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適 切な調整を加えた金額分だけ増額されること(第 30 項(2)参照)がある。このような調整 としては、例えば、類似の財又はサービスを新規顧客に販売する際に生じる販売費を企業 が負担する必要がないため、顧客が受ける値引きについて独立販売価格を調整することが ある。

125. 契約変更が独立した契約として処理されない場合で、第 31 項(1)の要件に該当するとき には、当該契約変更は既存の契約の後で交渉され、新たな事実及び状況に基づくものと考 えられるため、当該契約変更を将来に向かって会計処理し、過去に充足した履行義務に係 る収益を修正しない。また、第 31 項(2)の要件に該当するときには、既存の契約で約束し た財又はサービスとは別個の追加的な財又はサービスを移転しないため、履行義務の充足 に係る進捗度及び取引価格を変更し、当該変更による累積的な影響に基づき、契約変更日 において収益の額を修正する。

126. 契約変更から生じる取引価格の変更と、変動対価の見積りの変更は、異なる経済事象の 結果である。変動対価の見積りの変更は、契約における取引開始日に識別され合意された 変数の変化から生じるものであるが、契約変更から生じる取引価格の変更は、契約の当事 者間での独立した事後的な交渉から生じるものである。

(4)履行義務の識別

127. 顧客との契約は、通常、企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスを明示す る。しかし、顧客との契約には、契約締結時に、企業が財又はサービスを移転するという 顧客の合理的な期待が生じる場合において、取引慣行、公表した方針等により含意されて いる約束が含まれる可能性があり、顧客との契約において識別される履行義務は、当該契 約において明示される財又はサービスに限らない可能性がある。

128. 第 32 項(2)の定めは、特性が実質的に同じ複数の別個の財又はサービスを提供する場合 に、当該複数の別個の財又はサービスを単一の履行義務として識別するものであり、当該 別個の財又はサービスを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別す ることは、コストと比較して便益が小さいため設けている。この定めは、例えば清掃サー ビス契約のように、同質のサービスが反復的に提供される契約等に適用できる場合がある。

(別個の財又はサービス)

129. 約束した財又はサービスには、例えば、次のものがある。 - 26 - (1) 企業が製造した財の販売(例えば、製造業者の製品) (2) 企業が購入した財の再販売(例えば、小売業者の商品) (3) 企業が購入した財又はサービスに対する権利の再販売(例えば、企業が再販売する チケット) (4) 契約上合意した顧客のための作業の履行 (5) 財又はサービスを提供できるように待機するサービス(例えば、利用可能となった 時点で適用されるソフトウェアに対する不特定のアップデート)あるいは顧客が使用 を決定した時に顧客が財又はサービスを使用できるようにするサービスの提供 (6) 財又はサービスが他の当事者によって顧客に提供されるように手配するサービス の提供(例えば、他の当事者の代理人として行動すること) (7) 将来において顧客が再販売する又はその顧客に提供することができる財又はサー ビスに対する権利の付与(例えば、小売店に製品を販売する企業が、当該小売店から 製品を購入する個人に追加的な財又はサービスを移転することを約束すること) (8) 顧客に代わって行う資産の建設、製造又は開発 (9) ライセンスの供与 (10) 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(当該オプションが重要な権利 を顧客に提供する場合)

130. 顧客は、財又はサービスから単独で便益を享受することができる場合や、顧客が容易に 利用できる他の資源を組み合わせることによってのみ財又はサービスから便益を享受す ることができる場合がある(第 34 項(1)参照)。容易に利用できる資源とは、企業又は他の 企業が独立して販売する財又はサービス、あるいは、顧客が企業から既に獲得した資源(企 業が契約に基づき既に顧客に提供している財又はサービスを含む。)又は他の取引若しく は事象から既に獲得した資源である。 さまざまな要因により、財又はサービスから単独で顧客が便益を享受できること、ある いは、財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享 受することができることが示される可能性がある。例えば、それは、企業が特定の財又は サービスを通常は独立して販売するという事実により示される可能性がある。

131. 財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができるかどうか(第 34 項(1)参 照)を判定するにあたっては、顧客が当該財又はサービスをどのように使用するかは考慮 せず、当該財又はサービス自体の特性を考慮する。そのため、たとえ顧客が企業以外から 容易に利用できる資源を獲得することが契約によって制限されていたとしても、そのよう な契約上の制限は考慮しない。

(5)履行義務の充足による収益の認識

132. 第 37 項における支配の移転は、財又はサービスを提供する企業、あるいは当該財又は サービスを受領する顧客のいずれの観点からも判定でき、企業が支配を喪失した時、又は顧客が支配を獲得した時のいずれかとなる。通常、両者の時点は一致するが、企業が顧客 への財又はサービスの移転と一致しない活動に基づき収益を認識することがないよう、顧 客の観点から支配の移転を検討する。

133. 財又はサービスは、瞬時であるとしても、受け取って使用する時点では資産である。資 産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどす べてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨 げる能力を含む。)であり(第 37 項参照)、資産からの便益とは、例えば、次の方法により 直接的又は間接的に獲得できる潜在的なキャッシュ・フロー(インフロー又はアウトフロ ーの節減)である。 (1) 財の製造又はサービスの提供のための資産の使用 (2) 他の資産の価値を増大させるための資産の使用 (3) 負債の決済又は費用の低減のための資産の使用 (4) 資産の売却又は交換 (5) 借入金の担保とするための資産の差入れ (6) 資産の保有

(一定の期間にわたり充足される履行義務)

134. 多くのサービス契約では、サービスから生じる資産を顧客が受け取るのと同時に消費し ており、企業の履行により生じた資産は瞬時にしか存在しない。これは、当該サービス契 約において、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受す る(第 38 項(1)参照)ことを意味する。

135. 第 38 項(1)の要件は、企業の履行によって顧客が便益を直ちに享受しない契約に適用さ れることを意図しておらず、企業の履行によって仕掛品等の資産が生じる又は資産の価値 が増加する契約については、第 38 項(2)又は(3)の要件を満たすかどうかを判定する。

136. 第 38 項(2)の要件を満たすかどうかを判定するにあたっては、第 37 項の定めを考慮す る。企業が顧客との契約における義務を履行することにより生じる資産又は価値が増加す る資産は、有形又は無形のいずれの場合もある。例えば、顧客の土地の上に建設を行う工 事契約の場合には、通常、顧客は企業の履行から生じる仕掛品を支配する。

137. 一部の財又はサービスについては、第 38 項(1)又は(2)の要件を満たすことが困難な場 合があるため、第 38 項(3)の要件を定めている。

138. 第 38 項(3)の要件において、企業が顧客との契約における義務を履行することにより、 別の用途に転用することができない資産が生じることのみでは、顧客が資産を支配してい ると判断するのに十分ではないため、企業が顧客との契約における義務の履行を完了した 部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していることも要件として追加して いる。これは、一般的な交換取引に係る契約において、財又はサービスに対する支配を顧 客が獲得した場合にのみ、顧客が支払義務を負うことと整合している。

(履行義務の充足に係る進捗度)

139. 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間に わたり充足される履行義務について収益を認識する(第 44 項参照)。履行義務の充足に係 る進捗度を合理的に見積ることができない場合とは、進捗度を適切に見積るための信頼性 のある情報が不足している場合である。

3.収益の額の算定

(1)取引価格の算定

(変動対価)

140. 変動対価の額の見積りにあたっては、最頻値又は期待値による方法のいずれかのうち、 企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる(第 51 項参 照)。最頻値は、契約において生じ得る結果が 2 つしかない場合(例えば、割増金の条件を 達成するか否かのいずれかである場合)には、変動対価の額の適切な見積りとなる可能性 がある。期待値は、特性の類似した多くの契約を有している場合には、変動対価の額の適 切な見積りとなる可能性がある。

141. 変動対価の額の見積りに使用する情報は、通常、入札や提案等の過程及び財又はサービ スの価格設定において経営者が使用する情報と同様のものである(第 52 項参照)。

142. 最頻値による方法については、実務上、可能性の低いシナリオの結果を数値化する必要 はない。また、期待値による方法についても、実務上、企業が大量のデータを有し、多く の結果を識別できる場合であっても、複雑なモデルを用いてすべてのシナリオの結果を考 慮する必要はない。一定数のシナリオの結果及びその確率が入手できる場合には、生じ得 る結果の分布を合理的に見積ることができることが多い(第 51 項及び第 52 項参照)。

143. 変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上 された収益の著しい減額が発生しない「可能性が高い」(第 54 項参照)とは、計上された 収益の著しい減額が発生しない可能性が発生する可能性よりも高いという状況に比べ、発 生しない可能性が著しく高い状況を示し、IFRS における“highly probable”と同程度の 可能性を示している。 なお、公開草案では、IFRS 第 15 号における“highly probable”については、「可能性 が非常に高い」との表現を用いていた。公開草案に寄せられたコメントの中には、当該表 現が示す可能性の程度を明確にすべきであるとの意見があった。当該意見を踏まえ、「可能 性が非常に高い」を「可能性が高い」に変更しているが、当該変更は、我が国の他の会計 基準等で用いられている表現への変更であり、公開草案から可能性の程度を下げることを 意図したものではない。 (契約における重要な金融要素)

144. 重要な金融要素は、信用供与の約束が契約に明記されているか、契約の当事者が合意し た支払条件に含意されているかにかかわらず、存在する可能性がある(第 56 項参照)。

(顧客に支払われる対価)

145. 顧客に支払われる対価は、顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に企業 が支払う対価を含む(第 63 項参照)。例えば、企業が販売業者又は流通業者に商品又は製 品を販売し、その後に当該販売業者又は流通業者の顧客に企業が支払を行う場合がある。

(2)履行義務への取引価格の配分

(独立販売価格に基づく配分)

146. 独立販売価格の最善の見積りは、企業が同様の状況において独立して類似の顧客に財又 はサービスを販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格である。財又は サービスの契約上の価格や定価は、当該財又はサービスの独立販売価格となる場合がある が、そのように推定されるわけではない。 独立販売価格を直接観察できない場合には、第 65 項の定めと整合するような取引価格 の配分となる独立販売価格を見積る。

(値引きの配分)

147. 第 71 項(1)から(3)の要件のすべてを満たす場合を除き、契約におけるすべての履行義 務に対して値引きを比例的に配分すること(第 70 項参照)は、基礎となる別個の財又はサ ービスの独立販売価格の比率に基づき、それぞれの履行義務に取引価格を配分することと 整合している。

(変動対価の配分)

148. 契約において約束された変動対価は、契約全体に帰属する場合もあれば、次のいずれか のように契約の特定の一部に帰属する場合(第 72 項参照)もある。 (1) 契約における履行義務のうち 1 つ又は複数(ただし、すべてではない。)(例えば、 割増金の受取りが、企業が約束した財又はサービスを所定の期間内において移転する ことを条件とする場合) (2) 第 32 項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる 1 つ又は複数の別個の財 又はサービス(例えば、2 年間の清掃サービスの 2 年目において約束された対価が、 所定の物価上昇率の変動に基づき増額される場合)

(3)取引価格の変動

149. 取引価格は、契約における取引開始日後にさまざまな理由で変動する可能性があり、こ れには、不確実な事象が確定することや他の状況の変化により、約束した財又はサービス の顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を変動させるものが含まれ る(第 74 項参照)。

4.契約資産、契約負債及び債権

150. 対価に対する企業の権利が無条件である(第 12 項参照)とは、当該対価を受け取る期限 が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるものをいう。例えば、受け取る対価に 対する現在の権利を有している場合には、当該金額が将来において返金の対象となる可能 性があるとしても、債権を認識する。 対価に対する無条件の権利は、通常、履行義務を充足して顧客に請求した時に生じる。 ただし、顧客への支払の請求は企業が対価に対する無条件の権利を有することを示すもの ではなく、対価を受け取る期限が到来した時に対価に対する無条件の権利を有する場合が ある。

(IFRS 第 15 号の定め及び結論の根拠を基礎としたもの以外のもの)

1.収益の認識基準

(1)契約の結合

151. 契約の結合の定めにおける関連当事者(第 27 項参照)とは、企業会計基準第 11 号「関 連当事者の開示に関する会計基準」に定める関連当事者をいう。

(2)履行義務の充足による収益の認識

152. IFRS 第 15 号では、収益の認識時期を、財又はサービスに対する顧客の支配の獲得によ り判断するとされている(第 35 項参照)。審議の過程では、この支配の移転の考え方につ いて、工事進行基準は活動を基礎として業績を測定するものであり支配の移転の考え方と 相容れず、基準内で整合性が図られていないのではないかとの懸念を示す意見が聞かれた。 この点、IFRS 第 15 号の開発過程において、市場関係者から、工事進行基準の適用が認 められない場合には工事契約に関する有用な情報が提供されなくなるとの懸念が寄せら れたことを受けて、IASB は支配の移転の考え方を維持しつつ、一定の期間にわたり充足さ れる履行義務の枠組みの下で工事契約への具体的な適用を整理したとされている。 当委員会では、これらの IFRS 第 15 号の開発の経緯及び国際的な比較可能性を考慮して、 工事契約についても IFRS 第 15 号における会計処理を取り入れることとした。

(履行義務の充足に係る進捗度)

153. IFRS 第 15 号では、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、 当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義 務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで、原価回収基準により処理す ることとされている(第 45 項参照)。審議の過程では、この取扱いに関して、工事契約に係る財務指標を歪め期間比較を困難にするおそれがある等の意見が聞かれたが、履行義務 の充足が進捗しているという事実を反映するために一定の額の収益を認識すべきとの IFRS 第 15 号における論拠を否定するまでには至らないと考えられ、IFRS 第 15 号におけ る会計処理を取り入れることとした。

154. 工事契約適用指針では、「工事進行基準の適用要件を満たすと判断された工事契約につ いて、事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合には、その後の会計処理に ついては工事完成基準を適用することになる。」とされていた。審議の過程で、本会計基準 において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定 の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識する(第 44 項参照)こととして いるが、事後的に当該進捗度を合理的に見積ることができなくなった場合の取扱いを示す ことを求める意見が聞かれた。 この点、本会計基準では、履行義務の充足に係る進捗度は各決算日に見直す(第 43 項参 照)こととしており、当該進捗度を合理的に見積ることができるか否かについても各決算 日に見直すことになる。当該見直しにおいて、契約における取引開始日後に状況が変化し、 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができなくなった場合で、当該履行義 務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれるときには、その時点から原価 回収基準により処理する(第 45 項参照)。

2.表 示

155. 審議の過程で、サービスの提供による収益や企業が代理人に該当する場合など、本会計 基準に従って認識される収益の表示科目を明確化すべきであるという意見が聞かれた。こ の点、現在、表示科目として一般的に用いられている売上高は、他の関連する法令等にお いても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及 ぶこと等から、収益の表示科目について、注記事項と合わせて本会計基準が適用される時 (平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を 含む。)に検討することとした。なお、本会計基準を早期適用する場合には、我が国の実務 において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いること ができるものとする。 また、IFRS 第 15 号に定められている損益計算書における顧客との契約から生じる収益 と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否についても、同じく本会計 基準が適用される時までに検討することとした。

3.注記事項

156. IFRS 第 15 号の注記事項の定めは、収益に関する財務諸表利用者の理解に役立つことを 目的として、従来の会計基準と比較して拡充されており、比較可能性を改善するものと考 えられる。一方、当該注記事項の拡充に対して、我が国の市場関係者からは、IFRS 第 15 号 - 32 - の開発段階から、特に契約残高や残存履行義務に配分した取引価格等の一部の定量的な情 報の注記について、実務上の負担に関する強い懸念が寄せられており、最終化された IFRS 第 15 号の注記事項の定めに対しても引き続き懸念を示す意見が聞かれている。 本会計基準を早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び我が国の IFRS 第 15 号 の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS 第 15 号の注記事項の有用性とコストの評 価を十分に行うことができないため、必要最低限の定めを除き、基本的に注記事項は定め ないこととし、本会計基準が適用される時(平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年 度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に、注記事項の定めを検討することとし た。 また、本会計基準を早期適用する場合には、企業の主要な事業における主な履行義務の 内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記 することとした(第 80 項参照)。企業が履行義務を充足する通常の時点とは、例えば、商 品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供に応じて、あるいはサービスの完了時をい う。当該注記を重要な会計方針の注記として開示すべきか否かについては、本会計基準が 適用される時までに他の注記事項の検討と合わせて整理するが、実務の混乱を避けるため、 早期適用時においては個別の注記として開示することとした(第 80 項参照)。

Ⅳ.適用時期等

1.適用時期

157. 収益認識に関する会計処理は日常的な取引に対して行われるものであり、本会計基準の 適用により従来と収益を認識する時期又は額が大きく異なる場合、企業において経営管理 及びシステム対応を含む業務プロセスを変更する必要性が生じる可能性があり、新たな会 計基準又は改正された会計基準の公表における通常の準備期間に比して、より長期の準備 期間を想定して適用時期を定める必要があると考えられる。よって、本会計基準は、平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとした(第 81 項参照)。

158. また、IFRS 又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業が、IFRS 第 15 号又は Topic 606 を適用すると同時に、当該企業の個別財務諸表に対して本会計基準を適用する ニーズが聞かれることから、平成 30 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度 の期首から本会計基準を適用することができることとした(第 82 項参照)。 さらに、12 月末を決算期末とする IFRS 又は米国会計基準を連結財務諸表に適用してい る企業のニーズを勘案し、平成 30 年 12 月 31 日に終了する連結会計年度及び事業年度か ら平成 31 年 3 月 30 日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連 結財務諸表及び個別財務諸表から本会計基準を適用することができることとした。この場 合、比較可能性を確保する観点から、早期適用した連結会計年度及び事業年度の翌年度に 係る四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又は中間)個別財務諸表においては、 - 33 - 早期適用した連結会計年度及び事業年度の四半期(又は中間)連結財務諸表及び四半期(又 は中間)個別財務諸表について、本会計基準を当該年度の期首に遡って適用することとし た(第 83 項参照)。

2.経過措置

159. IFRS 第 15 号及び Topic 606 においては、適用初年度における実務上の負担を軽減する ために、さまざまな経過措置が設けられている。本会計基準においても、適用初年度にお ける実務上の負担を軽減するため、IFRS 第 15 号及び Topic 606 を参考とした経過措置を 定めることとした(第 84 項から第 86 項参照)。 また、IFRS 又は米国会計基準を連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社) が当該企業の個別財務諸表に本会計基準を適用する場合には、当該企業における実務上の 負担を軽減するため、IFRS 第 15 号又は Topic 606 のいずれかの経過措置を適用すること ができるとの定めを本会計基準に含めることとした。さらに、IFRS を連結財務諸表に初め て適用する企業(又はその連結子会社)が当該企業の個別財務諸表に本会計基準を適用す る場合には、当該企業における実務上の負担を軽減するため、IFRS 第 1 号における収益に 関する経過措置を適用することができるとの定めを本会計基準に含めることとした(第 87 項参照)。

160. 第 156 項に記載のとおり、本会計基準を早期適用する段階においては、基本的に注記事 項は定めないこととした。契約資産と債権については、貸借対照表において区分表示せず、 かつ、それぞれの残高を注記しないことができることとし(第 88 項参照)、当該区分表示 及び注記の要否は、本会計基準が適用される時(平成 33 年 4 月 1 日以後開始する連結会 計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に検討することとした。

161. 本会計基準では、取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を 得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう(第 47 項参 照)としており、我が国の売上に係る消費税等は、第三者に支払うために顧客から回収す る金額に該当することから、本会計基準における取引価格には含まれない。 公開草案に対して、非課税取引が主要な部分を占め、消費税等の負担者と認められる等 の理由により、消費税等の税込方式を採用する企業から、税込方式を容認すべきであると の意見が寄せられた。審議の結果、税込方式を認める場合、本会計基準における取引価格 の定義に対する例外を設けることになり、また非課税取引が主要な部分を占める企業にお ける売上に係る消費税等の額は重要性に乏しい等の理由により、代替的な取扱いを定めな いこととした。 ただし、本会計基準の適用初年度において、消費税等の会計処理を税込方式から税抜方 式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として、過去の期間に消 費税等が算入された固定資産等の取得原価を修正することとなるが、相当の期間にわたり 情報を入手することが必要となり、実務的な対応に困難を伴うことが想定されるため、適用初年度の期首より前までに消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等 相当額を控除しないことができることとした(第 89 項参照)。 本会計基準の公表による他の会計基準等についての修正 本会計基準の公表により、当委員会が公表した会計基準等については、次の修正を行う(下 線は追加部分、取消線は削除部分を示す。)。 企業会計基準第 9 号「棚卸資産の評価に関する会計基準」 第 31 項 棚卸資産には、未成工事支出金等、注文生産や請負作業についての仕掛中のものも含 まれる。なお、工事契約及び受注制作のソフトウェアに係る収益及びその原価に関する 施工者の会計処理及び開示については、企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計 基準」企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基準」において定めている。 

資産除去債務に関する会計基準 平成 20 年 3 月 31 日( 企業会計基準第 18 号 )

企業会計基準委員会 本企業会計基準は、平成 24 年 5 月 17 日までに公表された次の会計基準等による修正が反映 されている。
企業会計基準第 26 号「退職給付に関する会計基準」(平成 24 年 5 月 17 日公表)

 

目的

目 的

1. 本会計基準は、資産除去債務の定義、会計処理及び開示について定めることを目的とする。
2. 平成 20 年 3 月 31 日に、本会計基準を適用する際の指針を定めた企業会計基準適用指針第 21 号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が公表されているため、本会計基準の適 用にあたっては、当該適用指針も参照する必要がある。

会計基準

会計基準

用語の定義

3. 本会計基準における用語の定義は、次のとおりとする。 (1) 「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生 じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれ に準ずるものをいう。この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資 産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資 産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による 特別の方法で除去するという義務も含まれる。 (2) 有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう(一 時的に除外する場合を除く。)。除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクル その他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれない。 また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。

会計処理

資産除去債務の負債計上

4. 資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に 負債として計上する。 (資産除去債務を合理的に見積ることができない場合)
5. 資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、こ れを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計 上する。その場合の負債の計上の処理は、第 10 項及び第 11 項に準じる。

資産除去債務の算定

6. 資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッ - 4 - シュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定する。 (1) 割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己 の支出見積りによる。その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起 し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額とする。 将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出 のほか、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含める。 (2) 割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とする。

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分

7. 資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債 の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資 産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。 (資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分の方法)

8. 資産除去債務が有形固定資産の稼動等に従って、使用の都度発生する場合には、資産除去 債務に対応する除去費用を各期においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存 耐用年数にわたり、各期に費用配分する。 なお、この場合には、上記の処理のほか、除去費用をいったん資産に計上し、当該計上時期 と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理することもできる。 (時の経過による資産除去債務の調整額の処理)

9. 時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理する。当該調整額 は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定する。 資産除去債務の見積りの変更

(割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更)

10. 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更 による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して 処理する。資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合も、見積りの変更と同様 に取り扱う。

(割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額に適用する割引率)

11. 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フロー が増加する場合、その時点の割引率を適用する。これに対し、当該キャッシュ・フローが減 少する場合には、負債計上時の割引率を適用する。なお、過去に割引前の将来キャッシュ・ - 5 - フローの見積りが増加した場合で、減少部分に適用すべき割引率を特定できないときは、加 重平均した割引率を適用する。

開 示 (貸借対照表上の表示)

12. 資産除去債務は、貸借対照表日後 1 年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債 の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示する。貸借対照表日後 1 年以内に資産除去債 務の履行が見込まれる場合には、流動負債の区分に表示する。

(損益計算書上の表示)

13. 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当 該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。

14. 時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有 形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。

15. 資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際 に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去 費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上する。

(注記事項)

16. 資産除去債務の会計処理に関連して、重要性が乏しい場合を除き、次の事項を注記する。 (1) 資産除去債務の内容についての簡潔な説明 (2) 支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件 (3) 資産除去債務の総額の期中における増減内容 (4) 資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額 (5) 資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため、貸 借対照表に資産除去債務を計上していない場合には、当該資産除去債務の概要、合理的 に見積ることができない旨及びその理由

適用時期等

17. 本会計基準は、平成 22 年 4 月 1 日以後開始する事業年度から適用する。ただし、平成 22 年 3 月 31 日以前に開始する事業年度から適用することができる。

18. 適用初年度における期首残高の算定は次のように行い、両者の差額は適用初年度において 原則として特別損失に計上する。 (1) 適用初年度の期首における既存資産に関連する資産除去債務は、適用初年度の期首時 - 6 - 点における割引前将来キャッシュ・フローの見積り及び割引率により計算を行う。 (2) 適用初年度の期首における既存資産の帳簿価額に含まれる除去費用は、資産除去債務 の発生時点における割引前将来キャッシュ・フローの見積り及び割引率が、適用初年度 の期首時点と同一であったものとみなして計算した金額から、その後の減価償却額に相 当する金額を控除した金額とする。

19. 適用初年度の期首における既存資産に関連する資産除去債務について引当金を計上してい る場合においても、資産除去債務及び関連する有形固定資産の期首残高は前項に従って算定 するが、前期末における引当金の残高を資産除去債務の一部として引き継ぐ。

20. 本会計基準の適用については、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱う。

議 決

21. 本会計基準は、第 149 回企業会計基準委員会に出席した委員 11 名全員の賛成により承認さ れた。なお、出席した委員は、以下のとおりである。 西 川 郁 生(委員長) 逆 瀬 重 郎(副委員長) 新 井 武 広 石 井 健 明 石 原 秀 威 小宮山 賢 中 村 亮 一 野 村 嘉 浩 万 代 勝 信 山 田 浩 史 米 家 正 三

結論の背景

結論の背景

経 緯

22. これまで我が国においては、例えば、電力業界で原子力発電施設の解体費用につき発電実 績に応じて解体引当金を計上しているような特定の事例は見られるものの、国際的な会計基 準で見られるような、資産除去債務を負債として計上するとともに、これに対応する除去費 用を有形固定資産に計上する会計処理は行われていなかった。企業会計基準委員会は、有形 固定資産のこのような除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報とし て役立つという指摘などから、資産除去債務の会計処理を検討プロジェクトとして取り上げ ることとした。 その検討の契機としては、国際会計基準審議会(IASB)との間で、日本の会計基準と国際 財務報告基準(IFRS)との差異を縮小することを目的とした両会計基準のコンバージェンス に向けた作業を取り進めており、その中で、資産除去債務は、検討すべき項目の 1 つとして、 共同プロジェクトの第 3 回会合(平成 18 年 3 月開催)において短期プロジェクト項目に追加 されたことが挙げられる。 当委員会では、学識経験者を中心として平成 18 年 7 月に立ち上げたワーキング・グループ での検討を踏まえ、平成 18 年 11 月に資産除去債務専門委員会を設置し、学識経験者を含む 専門委員による討議など幅広い審議を経て、資産除去債務に関する論点について検討を重ね、 平成 19 年 5 月には、論点ごとに可能な限りの検討の方向性も示した「資産除去債務の会計処 理に関する論点の整理」を取りまとめ、広く一般から意見を募集するために公表した。当委 員会では、論点整理に寄せられた意見を踏まえ、さらに検討を重ね、平成 19 年 12 月には「資 産除去債務に関する会計基準(案)」を公開草案として公表し、広く意見を求めた。その後、 当該公開草案に対して寄せられた意見を参考にして、審議を行い、その内容を一部修正した 上で公表するに至ったものである。

用語の定義

(資産除去債務の定義)

23. 本会計基準でいう有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される 資産のほか、それに準じる有形の資産も含む。したがって、建設仮勘定やリース資産のほか、 財務諸表等規則において「投資その他の資産」に分類されている投資不動産などについても、 資産除去債務が存在している場合には、本会計基準の対象となることに留意する必要がある。

24. 本会計基準においては、資産除去債務を有形固定資産の除去に関わるものと定義している (第 3 項(1)参照)ことから、これらに該当しないもの、例えば、有形固定資産の使用期間中 に実施する環境修復や修繕は対象とはならない。

25. 有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕も、資産の使用開始前から予想され ている将来の支出であり、資産除去債務と同様に扱わないことは整合性に欠けるのではない かとの見方がある。しかし、修繕引当金は、収益との対応を図るために当期の負担に属する 金額を計上するための貸方項目であり、債務ではない引当金と整理されている場合が多いこ とや、操業停止や対象設備の廃棄をした場合には不要となるという点で資産除去債務と異な る面があることから、本会計基準では取り扱わないものとした。

26. 本会計基準では、資産除去債務は有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用により 生じるものとしている(第 3 項(1)参照)。通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的の ために正常に稼働させることをいい、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異 常な原因によって発生した場合には、資産除去債務として使用期間にわたって費用配分すべ きものではなく、引当金の計上や「固定資産の減損に係る会計基準」(平成 14 年 8 月 企業会 計審議会)(以下「減損会計基準」という。)の適用対象とすべきものと考えられる。 なお、土地の汚染除去の義務が通常の使用によって生じた場合で、それが当該土地に建て られている建物や構築物等の資産除去債務と考えられるとき(第 45 項参照)には、本会計基 準の対象となる。

27. 有形固定資産の使用を終了する前後において、当該資産の除去の方針の公表や、有姿除却 の実施により、除去費用の発生の可能性が高くなった場合に、資産除去債務の対象となるの かという議論が行われたが、有形固定資産を取得した時点又は通常の使用を行っている時点 において法律上の義務又はそれに準ずるものが存在していない場合は、有形固定資産の取得、 建設、開発又は通常の使用により生じるものには該当しないと考えられる。ただし、このよ うな場合には、減損会計基準の対象となるほか、引当金計上の対象となる余地もあるものと 考えられる。

28. 本会計基準では、資産除去債務を法令又は契約で要求される法律上の義務及びこれに準ず るものと定義している(第 3 項(1)参照)。企業が負う将来の負担を財務諸表に反映させるこ とが投資情報として有用であるとすれば、それは法令又は契約で要求される法律上の義務だ けに限定されない。また、資産除去債務は、国際的な会計基準においても必ずしも法律上の 義務に限定されていないことから、本会計基準では、資産除去債務の定義として、法律上の 義務に準ずるものも含むこととした。 本会計基準における法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可 能な義務を指し、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該 当する。具体的には、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務に加え、過去 の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けら れるものが該当すると考えられる。したがって、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画 のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しないこととなる。 29. 企業が所有する有形固定資産に特定の有害物質が使用されており、有形固定資産を除去す る際に当該有害物質を一定の方法により除去することが、法律等により義務付けられている場合がある。このような場合については、有形固定資産自体の除去について法律上の義務又 はこれに準ずるものがあるときにのみ、資産除去債務に含めるべきであるとする見方もある が、将来、有形固定資産の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避的であるならば、 現時点で当該有害物質を除去する義務が存在しているものと考えざるを得ない。このため、 有形固定資産自体を除去する義務はなくとも当該有形固定資産に使用されている有害物質自 体の除去義務は資産除去債務に含まれるとの見方をとることとした。なお、この場合に資産 除去債務の計上の対象となるのは、当該有形固定資産の除去費用全体ではなく、有害物質の 除去に直接関わる費用である。

30. 転用や用途変更は企業が自ら使用を継続するものであり、当該有形固定資産を用役提供か ら除外することにはならないため、除去の具体的な態様には含めていない(第 3 項(2)参照)。

会計処理

資産除去債務の負債計上

(現行の会計基準における取扱い)

31. 我が国においては、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」(昭和 35 年 6 月 大蔵省企業会計審議会)第三「有形固定資産の減価償却について」にあるとおり、有形 固定資産の耐用年数到来時に、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、その残 存価額に反映させることとされている。ただし、有形固定資産の減価償却はこれまで取得原 価の範囲内で行われてきたこともあり、残存価額がマイナス(負の値)になるような処理は 想定されず、実際に適用されてきてはいなかったと考えられる。また、当該費用の発生が当 該残存価額の設定にあたって予見できなかった機能的原因等により著しく不合理になったこ となどから残存価額を修正することとなった場合には、臨時償却として処理することも考え られるが、残存価額をマイナスにしてこのような会計処理を行うこともなかったと考えられ る。 さらに、有形固定資産の取得後、当該有形固定資産の除去に係る費用が企業会計原則注解 (注 18)を満たす場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に 繰り入れることとなる。しかし、このような引当金処理は、計上する必要があるかどうかの 判断規準や、将来において発生する金額の合理的な見積方法が必ずしも明確ではなかったこ となどから、これまで広くは行われてこなかったのではないかと考えられる。

(資産除去債務の会計処理の考え方)

32. 有形固定資産の耐用年数到来時に解体、撤去、処分等のために費用を要する場合、有形固 定資産の除去に係る用役(除去サービス)の費消を、当該有形固定資産の使用に応じて各期 間に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する考え方がある。このような考え 方に基づく会計処理(引当金処理)は、資産の保守のような用役を費消する取引についての従来の会計処理から考えた場合に採用される処理である。こうした考え方に従うならば、有 形固定資産の除去などの将来に履行される用役について、その支払いも将来において履行さ れる場合、当該債務は通常、双務未履行であることから、認識されることはない。 しかし、法律上の義務に基づく場合など、資産除去債務に該当する場合には、有形固定資 産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じることに変わりはないため、たとえその支 払いが後日であっても、債務として負担している金額が合理的に見積られることを条件に、 資産除去債務の全額を負債として計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理 (資産負債の両建処理)を行うことが考えられる。

33. 引当金処理に関しては、有形固定資産に対応する除去費用が、当該有形固定資産の使用に 応じて各期に適切な形で費用配分されるという点では、資産負債の両建処理と同様であり、 また、資産負債の両建処理の場合に計上される借方項目が資産としての性格を有しているの かどうかという指摘も考慮すると、引当金処理を採用した上で、資産除去債務の金額等を注 記情報として開示することが適切ではないかという意見もある。

34. しかしながら、引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に 計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるという意見がある。また、 資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの 債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含めることで、当 該有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。この結果、有 形固定資産に対応する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各 期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するものといえる。さら に、このような考え方に基づく処理は、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資する ものであるため、本会計基準では、資産負債の両建処理を求めることとした(第 7 項参照)。

(資産除去債務を合理的に見積ることができない場合)

35. 資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積ることが困難 であるため、合理的に資産除去債務を算定できない場合がある。このような場合は、当該債 務の金額を合理的に見積ることができない場合(第 5 項参照)に該当し、第 16 項(5)に定め る注記を行うことになる。

資産除去債務の算定

(資産除去債務の測定値の属性とそれに見合う割引率)

36. 資産除去債務の算定における割引前将来キャッシュ・フローについては、市場の評価を反 映した金額によるという考え方と、自己の支出見積りによるという考え方がある。また、割 引率についても、無リスクの割引率が用いられる場合と無リスクの割引率に信用リスクを調 整したものが用いられる場合が考えられる。当委員会では、割引前将来キャッシュ・フロー の測定値の属性とそれに見合う割引率の組合せについて検討を行った。

37. 市場の評価を反映した金額という考え方による場合、資産除去債務について、市場価格を 観察することができれば、それに基づく価額を時価として用いることが考えられるが、通常、 その市場価格を観察することはできないため、市場があるものと仮定して、そこで織り込ま れるであろう要因を割引前将来キャッシュ・フローの見積りに反映するという考え方による ことになる。この場合には、自己の信用リスクが高いときには市場の評価を反映した将来キ ャッシュ・フローの見積額が増加することとなるという見方と、将来キャッシュ・フローの 見積額は信用リスクによって増加するものではないという見方がある。 前者の見方は、現時点で処理業者との間で、対象となる有形固定資産の除去の実行時に支 払を行うという契約を締結することを想定すれば、将来の支払額は信用リスクの分だけ高い 金額が要求されることになるとの考え方に基づくものである。しかし、この見方に対しては、 そのような契約形態は、通常、市場がないために現実的な想定とは考えにくく、また、仮に そのような契約形態を採るとしても、自己の信用リスクについて市場の評価を反映した将来 キャッシュ・フローの見積額は他の条件が一定の場合、除去を実行する時期が近づくにつれ て、実際の除去に要する支出額に近づくこととなり、その算定を毎期末行うことは極めて煩 雑であるといった意見もある。したがって、市場の評価を反映した金額という考え方をとっ たとしても、前者の見方のように自己の信用リスクを加味すべきものとは必ずしもいえない と考えられる。

38. 一方、自己の支出見積りによる場合には、原状回復における過去の実績や、有害物質等に 汚染された有形固定資産の処理作業の標準的な料金の見積りなどを基礎とすることになると 考えられ、前項の後者の見方と同様に、自己の信用リスクは将来キャッシュ・フローの見積 りには影響を与えないものと考えられる。 自己の支出見積りと市場の評価を反映した金額との間に生じ得る相違として、前項のよう な自己の信用リスクの議論とは別に、市場が想定する支出額(として企業が見積る金額)よ りも自ら処理する場合の支出見積額の方が低い場合が考えられるが、現実には市場の想定す る支出額というものが客観的に明らかでないことが多いため、実務的には大きな相違とはな らないことが多いものと考えられる。また、仮に市場が想定する支出額よりも自ら処理する 場合の支出見積額の方が低い場合、自らの効率性による利益は、履行時に反映されるべきで あるという考え方もあるが、企業の投資上、資産の除去は、通常、単独ではなく有形固定資 産の投資プロジェクトの一環として行われるため、当該有形固定資産の耐用年数にわたり、 その効率性を反映させていく方が妥当であると考えられる。 以上のことから、本会計基準では、将来における自己の支出見積りが資産除去債務の測定 値の属性の基礎として適当であるものと判断した(第 6 項(1)参照)。 39. 割引前の将来キャッシュ・フローの見積金額には、生起する可能性の最も高い単一の金額 (最頻値)又は生起し得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した 金額(期待値)を用いる(第 6 項(1)参照)が、いずれにしても、将来キャッシュ・フローが 見積値から乖離するリスクを勘案する必要がある。将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクは、減損会計基準注解(注 6)で言及されているリスクと同じ性質のものであり、 リスク選好がリスク回避型である一般の経済主体にとってマイナスの影響を有するものであ るため、資産除去債務の見積額を増加させる要素となる。

40. 割引前の将来キャッシュ・フローとして、自己の信用リスクの影響が含まれていない支出 見積額を用いる場合に、無リスクの割引率を用いるか、信用リスクを反映させた割引率を用 いるかという点については、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクによる加算が含 まれていない以上、割引率も無リスクの割引率とすることが整合的であるという考え方があ る。この考え方は、①退職給付債務の算定においても無リスクの割引率が使用されているこ と、②同一の内容の債務について信用リスクの高い企業の方が高い割引率を用いることによ り負債計上額が少なくなるという結果は、財政状態を適切に示さないと考えられること、③ 資産除去債務の性格上、自らの不履行の可能性を前提とする会計処理は、適当ではないこと、 などの観点から支持されている。 一方、信用リスクを反映させた割引率を用いるべきであるという意見は、まず、割引前の 将来キャッシュ・フローの見積額に自己の信用リスクの影響を反映させている場合には整合 的であるという理由による。また、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクの影響が 含まれていない場合であっても、翌期以降に資金調達と同様に利息費用を計上することを重 視する観点からは、信用リスクを反映させた割引率を用いる考え方がある。さらに、それが 信用リスクに関わりなく生ずる支出額であるときには、信用リスクを反映させた割引率で割 り引いた現在価値が負債の時価になると考えられることを論拠としている。 しかし、これについては、資産除去債務の計上額の算定において信用リスクを反映させた 割引率を用いるとすることに、前述した②や③の問題を上回るような利点があるのかどうか 疑問がある。有利子負債やそれに準ずるものと考えられるリース債務と異なり、明示的な金 利キャッシュ・フローを含まない債務である資産除去債務については、退職給付債務と同様 に無リスクの割引率を用いることが現在の会計基準全体の体系と整合的であると考えられる。 これらのことから、本会計基準においては、無リスクの割引率を用いるのが適当であると考 えた(第 6 項(2)参照)。

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分

(資産除去債務に対応する除去費用の資産計上)

41. 資産除去債務を負債として計上する際、当該除去債務に対応する除去費用をどのように会 計処理するかという論点がある。本会計基準では、債務として負担している金額を負債計上 し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理を行うこととした。このような会計処 理(資産負債の両建処理)は、有形固定資産の取得に付随して生じる除去費用の未払の債務 を負債として計上すると同時に、対応する除去費用を当該有形固定資産の取得原価に含める ことにより、当該資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。すなわ ち、有形固定資産の除去時に不可避的に生じる支出額を付随費用と同様に取得原価に加えた - 13 - 上で費用配分を行い、さらに、資産効率の観点からも有用と考えられる情報を提供するもの である。

42. なお、資産除去債務に対応する除去費用を、当該資産除去債務の負債計上額と同額の資産 として計上する方法として、当該除去費用の資産計上額が有形固定資産の稼動等にとって必 要な除去サービスの享受等に関する何らかの権利に相当するという考え方や、将来提供され る除去サービスの前払い(長期前払費用)としての性格を有するという考え方から、資産除 去債務に関連する有形固定資産とは区別して把握し、別の資産として計上する方法も考えら れた。 しかし、当該除去費用は、法律上の権利ではなく財産的価値もないこと、また、独立して 収益獲得に貢献するものではないことから、本会計基準では、別の資産として計上する方法 は採用していない。当該除去費用は、有形固定資産の稼動にとって不可欠なものであるため、 有形固定資産の取得に関する付随費用と同様に処理することとした(第 7 項参照)。

43. 資産除去債務に対応する金額を有形固定資産の取得原価に含めて資産計上する場合、実務 上の負担等を勘案すると、関連する有形固定資産と区分して別の資産として管理することは 妨げられないが、その場合でも、財務諸表上は、有形固定資産として表示することが必要で ある。

44. 本会計基準適用後の減損会計基準の適用にあたっては、資産除去債務が負債に計上されて いる場合には、除去費用部分の影響を二重に認識しないようにするため、将来キャッシュ・ フローの見積りに除去費用部分を含めないこととなる。

(費用配分の方法)

45. 資産除去債務に関連する有形固定資産の帳簿価額の増加額として資産計上された金額は、 減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されること になる(第 7 項参照)。なお、資産計上された除去費用が有形固定資産の減価償却を通じて各 期に費用配分されるとすると、土地に関連する除去費用(土地の原状回復費用等)は当該土 地が処分されるまでの間、費用計上されないことになるのではないかという意見もある。し かし、土地の原状回復等が法令又は契約で要求されている場合の支出は、一般に当該土地に 建てられている建物や構築物等の有形固定資産に関連する資産除去債務であると考えられる。 このため、土地の原状回復費用等は、当該有形固定資産の減価償却を通じて各期に費用配分 されることとなる。

(資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分の方法)

46. 有形固定資産の使用に応じて汚染等が発生し、将来、原状回復のための除去の支出が生じ ると考えられるような場合には、当該有形固定資産に係る資産除去債務は各期において負債 の増加分として認識される。この場合、第 7 項に従えば資産除去債務に対応する除去費用も 各期においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に 費用配分することになる(第 8 項参照)。ただし、本会計基準では、当該費用配分の合理的な 方法として、米国会計基準と同様に、除去費用を資産計上し、当該計上時期と同一の期間に、 資産計上額と同一の金額を費用処理することも認められることとした(第 8 項なお書き参照)。 この場合においても、当該資産除去債務は割引後の金額で計上することとなる。 なお、通常、資産除去債務は有形固定資産の取得、建設又は開発の時点で発生するもので あり、このように使用の都度発生する場合は極めて例外的と考えられる。

47. 資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分に関して、第 7 項に従った処理方法(第 8 項参照)は除去費用に係る費用配分が有形固定資産の使用期間の後半に著しく偏ることとな るため妥当とはいえないとして、第 8 項なお書きの方法(除去費用をいったん資産計上し、 当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理する方法)のみを認める こととすべきであるとの意見があった。また、結果が大きく異なり得る 2 つの方法を認める ことは比較可能性を損なうおそれがあるとの意見もあった。しかし、本会計基準における原 則的な費用配分方法である第 7 項の考え方の適用を否定すべきではないと考えられるととも に、なお書きの方法が合理的な費用配分となる場合もあると考えられることから、2 つの方法 を認めることが適切と判断した。

(時の経過による資産除去債務の調整額の処理)

48. 時の経過による資産除去債務の調整額は、期首現在の負債の帳簿価額に負債計上時の割引 率を乗じて算定し、発生時の費用として処理する(第 9 項参照)。この調整額は、退職給付会 計における利息費用と同様の性格を有するものといえる。

(割引率の固定)

49. 割引率については、米国会計基準と同様に、変更を行わずに負債計上時の割引率を用いる 方法によることとした。割引率を毎期見直すとした場合、毎期末において変更後の負債額を 貸借対照表に反映させることになるが、このような負債の計上に割引率の変更を反映させる ことについては、他の負債の取扱いとの整合性に問題があるとの意見があった。また、割引 率を負債計上時の割引率に固定する方法は、時の経過によって一定の利息相当額を配分する ものであり、関連する有形固定資産について減価償却という費用配分が行われることとも整 合的であると考えられる。

資産除去債務の見積りの変更

(将来キャッシュ・フローの見積りの変更)

50. 資産除去債務の見積りの変更から生じる調整を、会計上どのように処理するかについては、 資産除去債務に係る負債及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、減価償却を通じ て残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法(プロスペクティブ・アプローチ)、資産除去債 務に係る負債及び有形固定資産の残高の調整を行い、その調整の効果を一時の損益とする方法(キャッチアップ・アプローチ)又は資産除去債務に係る負債及び有形固定資産の残高を 過年度に遡及して修正する方法(レトロスペクティブ・アプローチ)の 3 つの方法が考えら れる。

51. このような会計上の見積りの変更については、国際的な会計基準において、将来に向かっ て修正する方法が採用されていることに加え、我が国の現行の会計慣行においても耐用年数 の変更については影響額を変更後の残存耐用年数で処理する方法が一般的であることなどか ら、プロスペクティブ・アプローチにより処理することとした。この場合、割引前の将来キ ャッシュ・フローの見積りの変更による調整額は、資産除去債務に係る負債の帳簿価額及び 関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して取り扱うことになる(第 10 項参照)。

52. 資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合は、会計処理の対象となる新たな 事実の発生であるが、将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同様に処理する(第 10 項参 照)。ただし、この場合、影響が特に重要であれば、重要な法律改正又は規制強化による法律 的環境の著しい悪化(企業会計基準適用指針第 6 号「固定資産の減損に係る会計基準の適用 指針」第 14 項(3))として、「減損の兆候」に該当することとなる。 また、これまで合理的に見積ることができなかった資産除去債務の金額を合理的に見積る ことができるようになった場合についても、将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同様 に処理する(第 5 項参照)が、この場合も、資産に係る将来キャッシュ・フローに関する不 利な予想が明確になったものであることから、減損の兆候として扱うべきものと考えられる。

(割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額に適用する割引率)

53. 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合、その調整額に適用 する割引率は、米国会計基準と同様に、キャッシュ・フローの増加部分については新たな負 債の発生と同様のものとして、その時点の割引率を適用し、キャッシュ・フローが減少する 場合は負債計上時の割引率を適用することとした(第 11 項参照)。

開 示

(損益計算書上の表示:時の経過による資産除去債務の調整額)

54. 時の経過による資産除去債務の調整額の損益計算書上の区分について、営業費用又は営業 外費用のいずれに含めるか検討を行った。時の経過による資産除去債務の調整額は、資産除 去債務の履行に関する資金調達費用と見ることができるため、財務費用として営業外費用に 含めることが適切であるという見方もある。また、国際財務報告基準においては財務費用としての処理を求めている。

55. しかしながら、時の経過による資産除去債務の調整額は、実際の資金調達活動による費用 ではないこと、また、同種の計算により費用を認識している退職給付会計における利息費用 が退職給付費用の一部を構成するものとして整理されていることを考慮し、本会計基準では、資産除去債務に係る費用は、時の経過による資産除去債務の調整額部分も含め、対象となる 有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上することがより適切であるとした(第 14 項参照)。

(損益計算書上の表示:資産除去債務の履行時に認識される差額)

56. 資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務計上額と資産除去債務の決済のために実 際に支払われた額との差額の損益計算書上の区分について、営業費用又は特別損益(又は営 業外損益)のいずれに含めるか検討を行った。当該差額は、固定資産除却損と同様、営業費 用に含めて処理するのは適切ではなく、また、過年度における見積りの誤差部分も多く含ま れていることから、特別損益又は営業外損益として処理すべきであるとの見方もあった。

57. しかしながら、除去費用の総額が固定資産の利用期間にわたって配分され、将来キャッシ ュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合には資産除去債務の計上額が見直されること を前提とすれば、資産除去債務の履行時に認識される差額についても、固定資産の取得原価 に含められて減価償却を通じて費用処理された除去費用と異なる性格を有するものではない といえる。

58. そのため、本会計基準では、資産除去債務計上額と実際の支出額との差額は、当該資産除 去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することを原則とした (第 15 項参照)。 なお、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合等、当該差額が 異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理することに留意する。

(注記事項)

59. 資産除去債務の見積りにあたっては、将来における有形固定資産の除去時に生ずる支出額 を当該有形固定資産の取得時に見積ることから、多くの仮定に基づき、不確実な要素も考慮 することになるため、米国会計基準の定めにならって、支払金額及び支払時期についての不 確実性の内容の注記を求めるべきだとする見方もあった。しかしながら、不確実性の内容の 注記が財務諸表の利用者の理解への助けになり得るのか明確でないこと、見積りにあたって の諸要素の設定において、その不確実性を考慮するとすれば、むしろその見積りに関する情 報の開示を行うことがより有用であると考えられることなどから、支出発生までの見込期間、 見積りにあたって適用した割引率その他の前提条件の注記を求めることとした(第 16 項(2) 参照)。

60. 資産除去債務の将来における債務履行を確実に行うための対応をどのように準備している かという情報は有用であるとの観点から、貸借対照表に計上された資産の中に資産除去債務 の履行に関連して法的に制限されたものがある場合は、通常の担保資産に関する注記と同様 の注記を求めるべきだとする見方もある。海外においては資産除去債務の履行のための資金 の積立てが制度化されているところもあり、米国基準ではこのような資産に係る注記が要求 されている。しかし、我が国ではそのような資金積立の制度は一般的ではないことなどから、 基準に明記する必要性は乏しいと判断した。ただし、そのような資産の存在が重要であれば、 「資産除去債務の内容についての簡潔な説明」(第 16 項(1)参照)の中で記載することが適当 と考えられる。

適用時期等

(適用初年度における期首残高の算定)

61. 本会計基準を最初に適用する際に、どの時点での見積りを使用するかが問題となる。資産 除去債務の発生時から本会計基準を適用していたのと同様の結果となるべきであるという考 え方によるならば、その時点に遡って当時の経営環境等に基づいて各種の見積りを行うこと が妥当といえる。 しかしながら、固定資産の取得時点の情報を十分な信頼性をもって収集するのは現実的で はないと考えられること、また、固定資産の取得時点から本会計基準適用開始時までの間の 変化を織り込む際に相当の恣意性が介入する余地があることを考慮すると、本会計基準の適 用初年度の期首時点における合理的な見積りを用いて資産除去債務を算定するのが実務的に も合理的であると判断した(第 18 項参照)。

(期首残高の調整方法)

62. 適用初年度における期首残高の調整の方法としては、将来キャッシュ・フローの見積りの 変更に関する調整の方法(第 50 項参照)と同様に 3 つの方法が考えられるが、本会計基準で はキャッチアップ・アプローチを採用し、資産除去債務に対応する除去費用の期首残高は資 産除去債務の発生後の期間の減価償却額に相当する金額を控除した金額によるものとしてい る。 将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同じくプロスペクティブ・アプローチによって、 適用初年度の期首において資産及び負債を同額だけ計上する方法の採用も検討の対象とした。 しかし、適用初年度においては、使用開始後相当の期間を経過した有形固定資産が対象とな る場合が多いことから、プロスペクティブ・アプローチを採用した場合に資産の残高が回収 可能価額を大きく上回る結果となる可能性を無視できないため、プロスペクティブ・アプロ ーチを採用する場合には、減損損失の認識の要否の検討を要求する必要があると考えられる。 適用初年度においては、検討対象とすべき資産が多数にのぼることが考えられ、そのような 取扱いは実務上過大な負担となるおそれがあることなどを考慮した結果、適用初年度の期首 残高の調整方法としては、キャッチアップ・アプローチがより適切と判断した。 キャッチアップ・アプローチにおいても対象資産の帳簿価額が回収可能価額を超過する可 能性は皆無ではないが、その可能性は低くなるものと考えられることから、他に減損の兆候 がない限り、適用初年度において減損損失の認識の要否を検討する必要はない。 - 18 - なお、適用初年度の期中において、資産除去債務の金額の合理的な見積りがはじめて可能 となった場合(第 5 項参照)や、法令の改正等により資産除去債務が新たに発生した場合(第 10 項参照)には、見積りの変更として、プロスペクティブ・アプローチによって処理するこ ととなる。

(本会計基準適用による期首差額の取扱い)

63. 適用初年度の期首において新たに負債として計上される資産除去債務の金額は、時の経過 により当初発生時よりも増加する。さらに、適用初年度の期首残高の調整をキャッチアップ・ アプローチで行うことから、資産に追加計上される除去費用の金額は、過年度の減価償却費 相当額だけ当初発生時よりも減少するため、負債の増加額の方が資産の増加額よりも大きく なる。 この差額をどのように取り扱うかについては、適用初年度の損失として一時に計上する方 法のほかに、将来の一定期間にわたって費用処理する方法や、適用初年度の期首利益剰余金 の調整項目とする方法も検討の対象とした。 将来の一定期間にわたって費用処理する方法は、「退職給付に係る会計基準」(平成 10 年 6 月 企業会計審議会。平成 24 年 5 月に企業会計基準第 26 号「退職給付に関する会計基準」に 改正されている。)の適用時に採用された方法であるが、その後に公表された減損会計基準が 適用時の影響額の分割計上を容認しなかった経緯などを考慮すると、本会計基準において採 用することは適当でないと考えられる。 また、適用初年度の期首利益剰余金の調整項目とする方法は、本来的には過年度の財務諸 表に対する新たな会計基準の遡及適用が前提となるものであり、本会計基準においてそのよ うな処理を妥当とする事情は見出せない。 したがって、本会計基準においては、適用初年度の期首差額については当該年度の損益と して一時に計上する方法によることとした(第 18 項参照)。